第26話
「買えた?」
「買えましたよ」
リサイクルショップから出てきた
あれ、これって私のより綺麗じゃない?
スマホって割れてるのが普通じゃなかったの?
私がスマホに見とれてる間、彼女は慣れた手つきでいろいろとなにか操作していた。
「なにしてるの?」
「バッテリーの容量とか見てます。あとあわよくばWi-Fi飛んでないかなと」
「Wi-Fiなんかなくても普通に繋げばよくない?」
私が尋ねると、柊那は一瞬何か言いかけて口を閉じた。
そうことするのやめてほしいんだけど。なんて言えたらどれだけよかっただろう。
一度口を噤んだ柊那が私の言葉で口を開くとは思えない。
「用済んだなら次いこ」
不満を口にする代わりに、少しだけそっけない態度を装ってそう言った。
これで伝わるとは思わないけど、せめてもの抵抗だ。
「わかりました」
柊那はやっぱりなにも気づいてないのか、いつも通りの返事をすると歩き出した。
しばらく彼女の隣を歩いていると、ようやく違和感に気が付いたのか彼女は自分の手をじっと見ていた。
「
「なに?」
「手、つながないんですか?」
柊那はそう言うとさもつなぐのが当たり前のように手を差し出してきた。
ただ今日はちゃんと言わないとつながない。
「つなぎたいって言われてないし」
私がそう言うと、柊那のため息が聞こえた。
まあ自分でもめんどくさいのはわかってる。
多分
「つないでください」
柊那は私の返事を聞くことなく、奪うように私の手をつかんだ。
「わかった……」
今更拒否しても手を放すとは思えないし、拒否する気もさらさらないけどまあいいや。
それより、柊那は迷うことなく歩いていくけど、どこに行くか聞いてない。
変なところには連れていかれないと思うけど……。
「ねえ、どこ行くの?」
「ちょっと服でも買いに行こうかなと」
「服なら何着か持ってきたじゃん」
私たちが消えるまでの数時間、最低限のものは持っていこうということで服は積めた記憶がある。
まあオールシーズンに対応できるほど持ってきたわけではないし、いつかは買わなきゃとは思うけど。
翌日に買わなきゃいけないほど切迫しているとは思えない。
「まあ持ってきましたけど、よくよく考えたら何が消えてるかばれたらその服から私たちってバレる可能性もあるなって思って」
「まあそれはあるかもしれないけど」
「だから買っておきたいんですよね」
「わかった、じゃあ行こう」
ショッピングモールに着くや否や柊那主催のファッションショーが始まった。
着せ替え人形遊びのほうが適切な言い方かもしれないけど。
柊那は何着か選ぶと、私に「着てください」と命令してくる。
どれだけ彼女が敬語で頼んできても、私に拒否権はないのは理解してる。
「あ、それかわいいですね」
なん十着か着替えると、柊那はようやく満足したのか「これにしましょうか」と言ってくれた。
よかった終わった。
疲労のあまりへたりこみそうになるのをなんとかこらえて、大きく息を吐いた。
服を選ぶのは嫌いじゃないけど、こんなに長時間となると話は別だ。
柊那は服を選ぶ立場だから楽かもしれないけど、何度も脱ぎ着しなくちゃいけないのは意外と疲れる。
「なんでこんな時間かけてたの……」
「なかなか合う服が見当たらなくて」
「合う服って……」
柊那に見せる前に自分でも確認したけど、どの服も悪くはなかったと思う。
目的によって各服の評価は変わるだろうけど、私が普段着やデート用として着たいなと思う組み合わせも何着も混ざっていた。
「意外と難しいんですよ。世間になじむ服って」
「充分なじんでるように見えたけど」
「けど目を引いちゃいけないってのもわかってます?」
今までの服で目を引くことなんかないでしょと思ったけど、思い返すとどの服も街中でそれを着ている人がいたら振り返る。
ダサいとか悪い意味で目立っているという意味ではなく、自分のコーデの参考にするために目で追ってしまうと思う。
「わかった」
「真衣はただでさえ顔がいいから、下手にいい組み合わせすると雑踏にまぎれても浮いちゃうんですよ」
柊那はじっと私の目を見つめてくるけど、私より顔がいい人にそんなことを言われると気恥ずかしい。
自分の方が人の目を引いてるのわかってる?
ここに来るまでずっと、私たちに気が付いた人たちが見てたのは柊那だけだったよ。
「もうわかったって……。それでいいならそれ買って帰ろう……」
これ以上自分より優れている人に褒められるのは私が耐えられない。
さっさと脱いでレジへ向かおうとしたとき、柊那も試着室の中に入ってきた。
「出てって」
彼女を押すように手を伸ばすけど、ピクリとも動かない。
私の耳元に顔を近づけると、柊那は囁いた。
「大丈夫ですよ。私が入るとき誰も見てなかったので」
何が大丈夫なのか全く分からない。
ただでさえ狭い試着室の中で身動きが取れないでいると、彼女は私を壁に押し付けてきた。
「柊那っ」
言葉では強く抵抗するけど、柊那は私が叫んだり暴れたりできないのがわかっているんだと思う。
そんなことしたらたちまち店員が来るに決まってる。
多分その場で注意されて終わりだろうけど、もしなにか物でも壊して名前を聞かれたり警察を呼ばれたら逃げられる気がしない。
「ちょっとだけですから」
柊那はそれだけ言うと試着室の中でするには大胆過ぎるキスをしてきた。
キスされる準備ができておらず、窒息させられそうになっていると、彼女はようやく口を離した。
「なんでこんな事……」
「なんでって、彼女が私好みのかわいい格好してて興奮しないわけなくないですか?」
もし立場が逆だったらと考えると、柊那の言いたいことがわからないわけではないけど。だからってせめて抱きしめたくなるとかそのくらいだと思う。
「それにバレるかもって思うと余計ドキドキしちゃって……」
「変態……」
「別に嫌なら拒否してくれてもよかったのに、キス始めたら身体寄せてきたのは誰ですか……」
バレてたのか……。
私がし辛かったのもあるけど、無意識に拳一個分だけ開いていた隙間を密着するまで詰めてしまった。
嫌だな。キスに慣れるほど、抵抗感も常識もなくなっていく気がする。
「もう一回しますね」
柊那はすると言ったくせに、じっと私のことを見つめてきた。
「なんでなにもしないの……」
「真衣からキスしたいって言われてないので」
さっきを仕返しをされてる気がする……。
私から言わないとしてくれない気か……。
ここで、キスなんか興味ないっていえたらどれだけよかっただろう。
ただそんなことが言えるなら1回目の時点でちゃんと拒絶してる。
柊那の体温が感じられるくらいまで彼女を抱き寄せると、私は言った。
「キスして」
そう言うと、柊那は一瞬だけ唇を重ねてすぐに離れてしまった。
これじゃないってわかってるくせに。
一瞬脛でも蹴ろうかと思ったけど、そんなことをしても痛いだけで大したダメージにはならないだろう。
私は彼女の頭を押さえると、自分からキスをした。
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