第24話
「まーいー」
二人でベッドの上に寝転んでいると、
「なに?」
「ようやく本当に二人きりになれたなって思って」
「そうだね……」
柊那はそう言ってくる間も、抱きついた腕を解こうとしない。
別に掴んでなくてもどこかに行ったりしないのに。
「大好きですよ」
「私もだよ」
「
「私言ったことないっけ?」
前にも言ったことがある気がする。
多分だけど。さすがに柊那と
「まああの人から逃げてから今まで一度も言ってもらったことはないですね。さっきしてた時も名前は呼んでくれたけど、真衣が好きっていうのはいつも私が言ったあとだけでした」
「ごめん」
こんな時に限って「与えっぱなしだと愛情はいつか枯れちゃうんですよ」という、柊那から聞いた言葉が頭を過る。
柊那から与えられた何が愛情で何が愛情じゃないかはわからない。
ただ確実に返せてないことは理解してる。
もし今柊那からの愛情が消えたらどうなってしまうんだろうか。
さっきのことを思い出すだけで、最悪な結果になるとわかる。
「大好きだよ」
「ありがとうございます」
柊那はさらに力強く私のことを抱きしめてきたけど、この力の内何割が本心で何割が演技なんだろうか。
そう思うと急に不安になる。
本当に抱きしめなきゃいけないのは私の方じゃないの?
柊那は多分私がいなくても生きていける、志保に似て可愛いし
生きていけるどころか、今私を捨てれば幸せな人生に戻れるだろう。
けど私は?
今柊那に捨てられたら呼吸すらまともにできる気がしない。
そんなの嫌だ。
私は無意識に柊那を力いっぱい抱きしめていた。
どこにもいかないで。ずっと私と一緒にいて。
言葉はたくさん出てくるけれど、その言葉で柊那をつなぎとめられる自信がない。
「どうしたんですか?」
今までこんなに強く抱きしめたことがなかったせいか、柊那は不思議そうな声で尋ねてきた。
「ねえ柊那が今したいことってなにかある? 私で叶えられることで」
「真衣が叶えられることですか? 私は一緒にいられるだけで嬉しいけど」
「そういうのじゃなくて、もっと私ができることで」
一緒にいるなんて曖昧なことじゃダメだ。
柊那が今後私以上に好きな人ができた時、私といる必要性がなくなる。
もっと私じゃないとダメなことにしないと。
「真衣ができることですか……」
柊那は数秒間悩んだ後、少し控えめな声で提案してきた。
「首絞めながらキスしてもいいですか?」
「なんで、それなの……」
その言葉を聞くと、忘れなきゃと思っても志保に言われた「首絞めながらキスすると、気持ちいいんだって。試していい?」という言葉が脳裏に浮かぶ。
柊那は近くにいるのに、その言葉を聞いただけで呼吸が浅くなるのがわかる。
ちゃんと吸って吐かなきゃと意識をしても、どんどん鼓動が早くなるだけで身体が言うことを聞いてくれない。
「だって今消さないとあの時の記憶はずっと真衣の中に残りますよね? それだったら苦しくても私で塗りなおしたいです」
「わかった……」
柊那は私に馬乗りになると、ゆっくりと首に手を置いた。
表情は少し強張ってるように見えるけど、その中に少しだけ今まで柊那から向けられたことのない感情が混ざっている気がする。
その感情の正体はわからないけど、朱莉が浮気したいと言っていた時の
「本当にいいんですか?」
「いいよ」
「じゃあ」
その言葉を合図に首が徐々に絞まっていくのがわかる。
柊那の手はちょうどいい位置にあるのか、だんだんと何も考えられなくなってくる。
柊那の手は暖かい。口の中を自由に動く柊那の舌は脳の気持ちいいところを直接刺激されているような気分になってくる。
真っ暗で何も音もなにもない、ただただ気持ちのいい世界を漂っていると、何かが頬に垂れたのがわかった。
それをきっかけにして、意識が一気に現実に引き戻される。
「ひな?」
私が声を掛けても、彼女は私を見つめたまま固まっていた。
心なしか、私を絞めた時の志保と同じように呼吸が荒くなってる気がする。
「大丈夫?」
上体を起こして柊那に抱き着くと、ようやく彼女は反応した。
「真衣?」
「満足できた?」
「多分……」
柊那の返事はどこか他人事のようだけど、一応満足できたみたいでよかった。
このくらいならいつでも希望に応えられる。
「真衣は絞められてる時、怖くなったですか?」
「気持ちよかったけど、怖くはなかったかな」
柊那なら私を殺さないという安心感なのかわからない。
志保に首絞められている間も嫌な気はしなかったから、もしかしたら首を絞められたあとのがトラウマになっているのかも。
今柊那に抱き着いているけど、首を絞められた恐怖はまるでなく柊那の希望を叶えられた幸せしかない気がする。
「そっか……」
そう言ってくる彼女は少し残念そうな気がする。
目的が志保がしたことを自分で塗りかえたいだから、私がトラウマにならないなら意味がないのかもしれないけど。
「けど私はよかったよ」
「ならよかったんですかね……」
柊那は少し悩んだあと、不安そうに口を開いた。
「またしてもいいですか?」
「いいよ」
このくらいで柊那の希望を叶えられるなら、毎日でもしたい。
柊那は私の中から志保を消して、自分で塗り替えたいみたいだけど、それは私も同じだ。
柊那の中が全部私がいないとダメなことに置き換われば、きっとずっと必要としてくれる。
私が彼女の手を握ると、気持ちのよさそうな寝息を立て始めた。
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