第13話
なんで私、
柊那に当たった水が、きれいな水滴になり彼女の肌の上を滑り落ちる姿を眺めながら考える。
否応なしに泊めることになったけど、まあそれはいい。
今までだって
それ自体は別にたまに起こる出来事って感じで、おかしなことではない。と思う。
ただお風呂はな……。
今まで裸見せたのなんて志保ぐらいだし、それを他人どころか彼女の妹に見せてしまうのはなにもしなくてもいかがなものかと思う。
まあ寝る前にお風呂入らなきゃいけないってのは理解してるよ。
二人で入ったほうが早く済むってのも。
理解はしてるけど、なんで一緒に……。
柊那の匂いに包まれると、判断力が奪われて変になる気がする。
「そんなじろじろ見ないでくださいよ、変態」
柊那は私に向けていきなりシャワーの水を浴びせてきた。
「ちょっと、何するの?」
口の中に入った水を吐き出しながら尋ねると、大分不満そうな声が返ってきた。
「見たいなら、出たらいくらでも見せますから……、今は……」
見られるのがよっぽど恥ずかしいのか、柊那は再度水を浴びせてきた。
そんなに見られたくないなら一緒に入るとか言わなきゃいいのに。
不満を言っても、なにか言い返されそうだからなにも言わないけど。
「わかったよ」
まあ出たら裸でいる理由がないし、それこそ見せなくていい。
お風呂ならまあギリギリアウトだけど、まだセーフに持っていく余地がないわけではないと信じたい。
ただそれ以外は完全にアウトどころかゲームセットだろう。
「ただ、お姉ちゃんとは比較しないでくださいよ」
きっと熱いお湯を浴びているからに違いない。
柊那は頬を真っ赤に染めながら要望を告げた。
まあそんなこと言われなくても元から比較を口に出す気はない。
彼女と言う欲目を抜きにしても、透き通るように透明な肌、バランスの取れた四肢、どこを見ても端々まで完璧にメンテナンスされているのがわかる。
志保の方が劣っているとは言いたくない。
彼女は彼女で完璧だ。
人によっては志保の方がきれいだと言うだろう。
ただこの場合、柊那の方が私の好みに合っていたというだけで……。
「しないよ」
なるべくシャワー後の柊那の姿を見ないようにと下を向いていると、水位の上昇から彼女が入ってくるのがわかった。
「
さっき自分から見るなと言っていたくせに。
心の中で小さく悪態をつくと、「わかった」とだけ言ってゆっくり顔を上げる。
あ、やばいきれい……、じゃない志保のほうがきれい。
元々肌の透明感が高いせいか、上気した頬がより彼女の美しさを際立たせ、濡れてまとめられた髪も、上品さの塊の様だった。
「なにかついてます?」
少し照れながら笑う柊那は今まで見たどの姿よりも美しくて、私の心を奪っていく。
動揺がバレないよう必死に視線を外すが、網膜に張り付いた彼女の姿が消えることはない。
「まーいさん?」
さっきから心臓が今まで経験したことのない速さで脈を打っているが、これはきっと志保に内緒にしてるからそのせいなだけで……。
柊那は関係ない、はず……。
「さすがに、私だって傷つきますよ」
柊那の声には言葉通り不安の色が混ざっている。
傷つけたいわけじゃない。
「ごめん、今顔見れない……」
「やっぱ見たくないですか?」
「違うそうじゃない、見られないの」
彼女は察してくれたのか、「ああ」と小さな声を漏らす。
しばらくすると、彼女の腕が首に巻きついたきた。
その腕に身体を預けると、気が付いたら彼女に抱きしめられていた。
「これなら相手のこと気にしなくていいですよね?」
「そうだね」
今だけは周りにお湯があってよかったと思う。
私の肌に触れているのが彼女の体温かお湯かわからないおかげで、惑わされなくて済む。
ただほかの感覚を気にしなくていいせいか、彼女の心音がはっきり聞こえてくる。
初めはお互い別々のリズムで脈を打っていたのに、だんだんとそろっていった。
だんだんと意識が遠のいているのを感じていると、私を呼ぶ声が聞こえてきた。
「真衣さん」
「ん? なに?」
「お姉ちゃんからつけられた痕ってまだ消えないんですね」
彼女はこの間の噛み痕の上を指でなぞりながら尋ねてくる。
「そうだね、大体消えるまで一週間ぐらいかかるし……」
「ふーん。ならまたつけてもいいですか?」
「あー……」
まあダメって言ってもどうせ、付けられそうだしな。
この間も付けさせたし別にいいか。
「いいよ……」
しばらくすると、鈍い痛みが肩から伝わってくる。
よっぽど強く噛んでいるのか彼女の口から漏れる吐息を聞いていると、数秒後にようやく終わった。
「なんか自分でつけるのって難しいですね……」
「そうだね……」
その後も柊那に身を任せていると、何度も皮膚が吸われる感覚があった。
「満足した?」
「……どうせならマークだけじゃなくてちゃんとしたキスもしたいです」
「それはさすがに……」
キスマークをつけさせるくらいなら別にいいと思っていたけど、キスはさすがにダメな気がする。
それをしたら浮気の振りから振りの字を消す必要が出てくるんじゃないだろうか。
彼女はすこし潤んだ瞳で尋ねてきた。
「なんでですか? 唇が触れるだけでそんな特別なことじゃないですよ?」
「それはそうかもしれないけど……」
「ならいいじゃないですか。それとも今更あの人のこと裏切りたくないとか言いませんよね?」
「それは、言わないけど……」
二人でお風呂に入ってる時点で取り返しのつかないことをしてるのはわかってる。
ただ今まではなんとか自分の中で納得させられてたけど、どうしてもキスだけは自分の中でしょうがないと思うことができない。
「大丈夫です、真衣さんが黙ってれば誰にもバレません」
「そうかもしれないけど……」
「ならいいでしょ?」
「わかった……」
志保には黙ってればいい。
このキスで最後にすれば、なにも問題ない。
全部きっと上手くいく。
身体の力を抜いて柊那に身を任せていると、唇からふにっとした触感が伝わってくる。
「終わった?」
柊那はさっきまで触れていた感触を確かめるかのように自身の唇に触れると、言った。
「もうちょっと、いいですか?」
「わかった……、次で最後でいい?」
「今日はって意味ならいいですよそれで」
「これからもって意味だけど、まあいいよ」
どうせ一回も二回も変わらない。
さっきみたいにすぐ終わるなら、もう一回して二度と思い出さないほうが気が楽だ。
「ありがとうございます」
また柊那に任せようと身体の力を抜くと、今度はしっかりと頭を押された。
「ちょっ……」
何がされるのかわからず、困惑の声を出すがその時にはもう唇は触れ合っていた。
ちゅっちゅという音と共に唇から伝わる、やわらかい柊那の感触が脳を蕩けさせる。
一瞬だけ抵抗しようと力を込めた腕も、今はだらりと飾りのように垂れさがっている。
志保としたときはここまでよかっただろうか。
しばらくすると、唇の間から差し込まれた柊那の舌がまるで別の生物のように這いまわるが、どんどんと身体の力が抜けていく。
口の中が柊那の味でいっぱいになり、身体の中からドロドロに溶けだすと、柊那が囁いた。
「真衣さん、続きしたい……」
今の私に首を横に振る元気なんて残っていなかった。
多分、ゆっくりと頭を動かしたとは思うけど、そこから先のことはなるべく思い出したくはない。
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