第9話
元々私と
中学は違ったけど、お互いその塾に通っている友達がいないこともあって仲良くなるのに時間は掛からなかった。
「
塾が終わり二人で電車を待っていると、急にそんなことを話しかけられた。
受験まであと数か月と迫り志望校の話題になるのは仕方ないのかもしれないけど、正直いろんな人とこの話題をし過ぎて飽きた。
そんなつもりはないんだろうけど、人によっては過剰なリアクションをしてきて、こっちの神経逆なでしてくるし。
ただ志保ならそんな心配しなくてもいいかな。
「あー一応ね、白羽に行こうかなとは思ってる」
「白羽って偏差値高くない? 受かる気しないしもっとレベル下げて」
私より頭いい癖になに言ってるんだ。
一瞬真顔でそう言いそうになったけど、せっかくできた友達なんだし失わないためにも辛うじて言葉を選んだ。
「今のままでも志保は白羽は入れるでしょ?」
「真衣はわかってないな~。高校ってあくまで通過点に過ぎないんだよ」
「まあそれは知ってるけどさ……」
なんで口酸っぱく言われた言葉を志保から訊かなきゃならないんだろうか。
そんな私の不満を感じていないのか何事もなく話続ける。
「だから私頑張って高校入るのよくないと思うの。そりゃ受験勉強は大事だと思うよ。ただ高校入ったらもっと難しい勉強をしなきゃいけなくなるしそうしたら真衣とも遊べなくなっちゃう」
「そうだね」
なんで志保は同じ高校に通う前提で話しているのか気になるけど、今はいいや。
そこを突っ込むとただでさえ長くなりそうな講釈がもっと長くなりそうだし。
「だから私は高校は8割ぐらいの力で入れるところに入ったほうがいいと思う」
「まあ志保の言いたいことはわかった。そのうえで訊くけど、夏の模試で白羽書いたよね? その時の判定は?」
「Aだったよ?」
「夏どれくらい勉強してた?」
「? 一緒に遊んだの忘れちゃった?」
忘れてるわけないでしょ……。
海に花火に、また海、そしてキャンプ。
今まで生きてきた中で2番目に充実した年にダブルスコアつけるぐらいの充実度だったよ。
そのせいで、今勉強しないと大変なことになってるんだから……。
だからってそういうことを訊きたいわけじゃないんだよ。
「全部覚えてるよ」
「何が訊きたいの?」
「別にレベル下げなくても受かるでしょって言いたいの!」
なんで頭いいくせにここまで言わないとわからないんだ。
というより、なんか志保さん勉強以外ができないの?
前もなんか私に言えばすぐ解決しそうな問題をずっと一人で考えて、挙句状況を悪化させてたし。
「まあ今のままなら評価上はそうなってるけどね。ほかの子が本腰いれて勉強しだしたらわからないよ」
「そうだけどさ」
「だからちょっとは下げない?」
まあ別に下げてもいいんだけど、ここで下げると受験が近くなった時にさらに下げる羽目になりそうで、下げたくない。
「下げない。その分私と一緒に勉強して」
「んーわかったよ……。けどよかった同じ高校には行ってくれるんだ」
志保は大きく息を吐き出すと、心底安心したような声をだした。
「そりゃね」
行かないわけないじゃん……。
じゃきゃ白羽なんか目指してないって。
そのくらいの高校じゃないと志保の親が納得しないってわかってるんだよ。
「ならまあせめて恥ずかしくない点くらいはとれるようにしておかないとな」
「そうしてください」
もっと志保の家が緩ければ私だって、楽にいける高校行きたいよ。
ただ誰にも私のせいで志保の成績が落ちたとか言ってほしくないし、彼女の足を引っ張りたくない。
「で、明日は志保の家行っていいの?」
「ダメだって、家来られると私が一番優秀じゃないのがバレちゃう」
彼女はいたずらっ子のような笑顔を向けてくる。
ただそんなのずっと昔にわかってるとは言っちゃいけないんだろうな。
「わかった」
「じゃあそろそろ電車来そうだし、またね」
◇
「それでここに受かった時に志保に告白されたの」
今思い返してもあの時の私たちは純粋だったなと思う。
まああの時はほかのことを考える余裕がなかったとも言えるけど……。
「なんか二人ってもっと爛れた出会いだと思ってた……」
「それ私も思ってた」
もっと爛れた出会いってなんかすごい失礼なことを言われる気がするけど、まあ釣り合っては無いし、そう思われても不思議ではないか。
「健全だから……」
「そういえばさ、一個下に姫川ってかわいい子いるじゃん。あの子って姫川さんの妹?」
「あーどうだろう……」
これって確か言わないほうがいいやつだよね。
志保も内緒にしてるみたいだし。
「私はわからないや」
「なら、今度声かけよ~」
私の返事を聞くと、朱莉は一気に弾んだ声を出した。
いやそんなことされるとまずい……。
それよりも
「やめた方がいいんじゃない……」
無いとは思うけど、もし朱莉と柊那が話して私と浮気の振りしてますなんて言われたら目も当てられないし。
それに、もし全部上手くいって朱莉と付き合うことになってもそれはそれで私は嫌だ。
「大丈夫大丈夫、あたし年下も好きだし」
「いやそうじゃなくて……」
さっきからゴミを見るような目で和香に見られてるけど、朱莉は気づいてるんだろうか。
和香には文句の一つでもあるなら言ってもらった方が気が楽だけど、黙ってるせいでよけい怖く感じる。
「さすがに友達の彼女の妹に手を出すのは抵抗感合ったけど、他人なら気兼ねなく行けるしね」
多分こういうことしてるから振られるんだろうなという嫌な確信が出来上がっていた。
和香は触れないことに決めたのか、二人きりになった時なにかする気なのか、少しだけこちらを見ると無言でお昼を食べ始めていた。
その後朱莉の地雷原の上でタップダンスを踊っている姿に適当な相槌を打ちながら聞いていると、どこからか呼ばれた。
「真衣!」
声の方を見ると廊下にいる志保がこっちに向かって手を振っていた。
よかったやっと来た。
この和香が発する重苦しい空気からやっと抜け出せると思うと、途端に身体が軽くなる。
「じゃあごめん、ちょっと行ってくるね」
「あーそっか、今日姫川さんと食べる日か」
「いってらっしゃい。あ、一応妹いるか訊いといて。あの子が妹だったら連絡先も」
「訊かないから。じゃあね」
朱莉に対し舌を見せると、志保の方に駆けていった。
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