第3話
『ゲームセット!』
迫力ある効果音と共に私がさっきまで操作していたキャラは画面の彼方まで吹っ飛んでいった。
強くない?
いや私が弱いのか?
画面の中央で勝利のポーズを取っている
気が付いたら不利な状況に追い詰められ、気が付いたらやられていた。
始める前は「普段ゲームとかやらないから弱いかも」とか言ってたくせに。
「嘘ついた?」
「え? 何がです?」
私の問いに彼女は虚を突かれたような表情で返してくる。
その顔に嘘の色は浮かんでいない気がする。
けど……弱いって言ってたくせに普通に強いじゃん。
「昔このゲームやったりしたことあるでしょ?」
「いやいや。
「まあそうだけどさ……」
それに初めの数プレイは本当に動かし方がわからなかったようで、自滅や私の圧勝だったことが多かった。
ただそこから10、20ゲームと続けると徐々に互角になって、いつの間にか私が連敗するようになっていた。
コントローラーの持ち方からも慣れてる感じはしないし……。
「どうしたんですか、指なんか見て?」
「いや……、きれいな指してるなって思って」
「そうですか?」
彼女はしばらく自分の指を眺めたあと、「ないない」と少し頬を赤く染めながら手を振った。
「別に褒めなくても、言ってくれれば手加減しますよ」
「さっきもそう言ってゲーム変えたけど、またこれじゃん」
ゲーム画面にはさっき場外まで飛ばされた私の分身が、目をバツにして地面に突っ伏している。
このゲームの前にも何種類か対戦ゲームはやったけど、ジャンル問わずどれも20戦もすると私の勝ち目は消えていた。
初めは相性がよかったのかと思ったけど、ゲームの天才か実は誰にも内緒ですごい時間プレイしてますとかしか考えられない。
「まあそうですけどねー」
彼女はそう言って笑って見せた。
嫌味なく笑う顔からは何かを隠してる様子はなくて、私の邪推はどうせ外れているんだろうなと思う。
コントローラーを放り投げ、ごろんと横になって私は尋ねた。
「なんか勝つコツあるの? 私が弱い以外で」
「あーなんだろう。私も適当に動かしてるだけなんですけど――」
彼女は勝手に試合を始めると、分身を動かした。
しばらくステージを走り回ったあと、注意を引く様に画面の中でぴょんぴょんと跳ねる。
「この火山っぽいステージギミックあるじゃないですか? 当たるとウザいやつ」
「あーウザいね」
「これが体感15秒間隔で火を噴くので、そのタイミングで隙を見せて真衣さんを呼び込んだりしてました」
言われてみると、火山に吹き飛ばされて死んだことも何回かあった気がする。
ほかにも初めて見るステージでは私が有利だけど、2回目以降からだんだんとステージの特性を利用されて負けることが増えていった気がする。
そういえば私どんなギミックがあるかは知ってたけど、それを使ってどう勝つかとかは考えたことなかったな。
「柊那ってプレイしながらいろんなこと見てるんだね」
「そうですねー。まあ後はこっちの体力が満タンでもわざと回復アイテム取るようにしたり」
そう言えばそんなこともされた気がする。
回復して、これで五分に戻せると思った目の前でアイテムが消えた絶望感は言葉にしようがなかった。
「柊那って意外と手段選ばないんだね……」
「えーそうですかね? みんなやってる気はしますけど……。ただまあ」
そう言いかけたあと彼女はじっと私の顔を見てきた。
数秒間見つめあっていると、微笑みかけてきたがなんか気まずい……。
私だって志保の気を引くために手段選んでないじゃん、とでも言いたいんだろうか。
「まあってなに?」
「いや」
それだけ言うと、彼女の顔から表情が消えた。
氷が埋め込まれたのかと思うくらい冷たい目で見降ろされると、背中に汗が伝う。
彼女の目を見ていると私からなにか言ってはいけない気がして、指先一つ動かすことができない。
柊那はしばらくして私から視線を外すと普段の彼女からは考えられないくらい、暗く重い声が聞こえてきた。
「手段選んでたら勝てないですから。普通なら使わないものだって使えるなら使いますし、奪わないものも奪いますよ」
「負けず嫌い?」
「かもしれないですね」
柊那は鈴を転がすような声で笑う。
その顔にはさっきまで浮かんでいた恐ろしさははたと消え、いつもの柊那がいた。
私もさっきまでの金縛りみたいな状態から解放され、自由に動くことができた。
さっき放ったコントローラーを手に取ると、柊那がさっき始めた試合を終了させる。
「そっかー。じゃあもう一戦いい?」
「いいですけど。同じゲームでいいんですか?」
「いいよ。そう言われると負かしたくなったし。種がわかれば私でも勝てそう」
「私だって全部の種を明かしたわけじゃないですからね」
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