第32話「キジマさん」(フ完全版) 最終話

 士郎の目は、カッと見開き耀子の顔を凝視したが、直ぐに目を伏せてしまった。

 士郎は嗚咽していた。


「泣いているの?」


「同情なんて要らない」


「ああ、その通りだ、だけど同情して泣いているんじゃない。同情しか出来ない、気の毒にとしか思えない、どうする事も出来ないこの状況に泣いているんだ」


「どうやら、あなたからもらうものは何もなさそうね」

 耀子の姿が足元からゆっくりと消えていった。


「待ってくれ、まだ話を・・・」


 その声は届かなかった。


 この日を境に、あの現場で木嶋耀子を見たと言う者は現れなくなったが、「キジマさん」の話をすると「キジマさん」が現れるという噂が広がりだした。


 橋元菊子、鈴木美津子、山田淳一、佐藤士郎、この4人の体験は、後に山田淳一が主だって語り継がれていき、怪談「キジマさん」として伝わる事になる。



 

 


 

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