第30話「キジマさん」(フ完全版) 15

「あなた、綺麗な顔してるわね」

「やめて、近づかないで化物」

「化物?」

「そうよ、アンタは化物よ、まるでピカソの絵だわ」

「ピカソ?、あなた面白い事を言うわね」

 耀子はその手を菊子の顔へ伸ばした。

「やめて、触らないで」

 部屋の角に置かれたベッドの隅へ追い詰められた菊子が、近くにある物を手当たり次第投げたが、それらはただ耀子の身体を通り抜けるだけだった。

 耀子の手が菊子の鼻へ伸びる。

「あなたのその筋が通った美しい鼻、その鼻をいただいたわ」

 そう言って、木嶋耀子は足の方から少しずつ半透明になって消えていった。


 菊子が慌てて自分の鼻に触れてみると、鼻はいつも通り顔の中央に在った。

 恐る恐る自室の鏡台で自分の顔を映してみると、多少青ざめていたが、いつもと何ら変わりない美しい自分の顔があった。

 フッ〜と大きなため息を吐いた。

 

 その時、

 ツッ〜と生暖かい液体が垂れて、菊子はそれを手の平へ受けた。

 血液、鼻出血だ。 


 ポキッと小枝が折れる様な音がして、菊子は鼻の奥にツーンとした痛みを感じた。


「キャーッ」

 鏡を見た菊子が悲鳴を上げた。

 菊子の鼻は鼻骨が折れ有り得ない方向へ曲がっていた。まるでピカソの絵画の様に。

 

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