第29話「キジマさん」(フ完全版) 14

 その日の夜、

 菊子は美津子と淳一の話を思い出していた。肝試しに行った4人のうち2人の元に「キジマさん」が現れたという、次は私か士郎の番だろう、なに来たところで恐れる事などない、あんな追い払ってしまえば良いのだ。

 父の秘蔵のワインほぼ1本空にした菊子は強気のまま眠ってしまった。


 深夜午前2時を廻った頃、菊子は目を覚ました。頭が痛いのと身体が重いのはワインの所為だろう。

 フト気がつくと、足元に誰か立っている。

「来たな」と思った。


 部屋が暗いので顔はよく判らないが、シルエットは明らかに女だ。

 その女が話しかけてきた。


「あなた、私を知ってる?」

「え、ええ、知ってるわ、キジマヨウコでしょ」

「あなた、何の目的で私の家に来たの?」

「アンタが化けて出るって聞いたから、どんな顔してるか見に行ってやったのよ」

 菊子はそう応えると、首から掛けていた十字架を握りしめて、部屋の電気のスイッチを点けた。


「ギャ〜」


 女の悲鳴が響いた。


「残念だけど、そんなの効かないわ」

 明るくなった部屋の中には、ベッドの上で十字架を向ける菊子と、煌々と照らす照明の中でその顔を顕にしたキジマヨウコが立っていた。

 キジマヨウコの顔を見た菊子が悲鳴を上げたのだ。

 ダンプカーに潰され、両目は互い違いに、鼻は有り得ない位置へ、口は裂け、赤黒い体液に塗れた顔があった。

 菊子は改めて、美津子が言った「ピカソ」の意味を思い知らされた。


 

 

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