第28話「キジマさん」(フ完全版) 13

 淳一から美津子の話を聞いた士郎は、特に無反応だった。

 驚くとか、恐れるとか、何かリアクションがあると思っていた淳一は拍子抜けしてしまった。

「おい、士郎聞いてるのか?」

「ああ、もちろん」

 そう応えたが、士郎の表情は何処か上の空だった。


 次の日の午後、士郎は学内で淳一に呼び止められた。淳一のよこには菊子も居た。

 震える声で淳一は言った。

「お、おい、士郎、大変だぞ、昨日の夜、俺ん家にキジマさんが来た」

 さすがに士郎も焦った表情で、

「淳一、おまえ身体は大丈夫なのか?」

「そ、それが」

 淳一は泣き出した。

「片耳が全く聞こえなくなっちまった。今日午前中に耳鼻科いしゃに行って来たんだが、突発性難聴とか言われ、はっきりした原因はわからんらしい」


「淳一も何かキジマさんに質問されたんだってさ」

 菊子が言った。


「そうなんだ、まず、「私が誰か知っているか?」と聞かれたから、「はい、キジマさんです」と答えたんだ。そしたら次に、「あなたは何の目的で私の家に来たのか?」と聞かれたんで、何度も謝りながら、「ごめんなさい、面白がって見に行っただけです」と答えたら、「そう、じゃああなたの耳をいただくわ」と言って、俺の耳にキジマさんが触ったんだ、すごく冷たい手で、そしたら触られた方の耳が聞こえなくなっちまったんだ」

「大丈夫よ、一時的なもんよ、きっと、すぐに良くなるわ」

 菊子が言ったが、

「いや、多分、もう一生このままさ、これはきっとだよ、ああ、あの日肝試しなんて行かなきゃよかった」

「何よ、アタシの所為だって言うの?、アタシは関係無いからね」

 菊子が言い放った。 

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