第25話「キジマさん」(フ完全版) 10

 その後美津子は他の3人がいくら話しかけても震えるばかりで何も応えなかった。

 やがて、車が美津子の家の前に停まると、彼女は急いで車から降り、家へ飛び込んでしまった。


「なんかごめんねぇ、ミツコがあんなで」

「キッコさん、ミッちゃん大丈夫かなぁ?」

 淳一が聞いた。

「だいじょうぶよお、大方猫か何かに驚いたんじゃないの、明日は大学ガッコくるわよ」

「ならいいけどね」

 士郎が外を眺めながら呟いた。


 翌日、鈴木美津子は大学を休んだ。

 さすがに多少気になった菊子は美津子へ電話をしてみる事にした。


「ミツコ大丈夫?、アンタ一体何見たのよ」

 少し落ち着いたのか、美津子は会話が出来る様になっていた。「フ〜」と深呼吸をした後話し始めた。


「いた、いたのよ、キジマさんが」

「うっそぉ、誰もいなかったじゃない」

「私には見えたのよ、あの家の跡、門のところで彼女立っていたわ」

「どんな格好で?」

「フツ〜の黄色のワンピースだったわ、だけど・・・」

「だけど?」

「顔が・・・」

「顔?」

「顔がだったわ」

「ピカソ!?」

 菊子は思わず吹き出した。

「ちょっと、笑い事じゃないのよ、顔が、顔が潰れてピカソの絵みたくなってたのよ」

 真剣に話す美津子と対照的に菊子は笑みを浮かべながら受話器を手にしていた。

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