第24話「キジマさん」(フ完全版) 9

「なんだ、ただの原っぱじゃない」

 菊子が言った。

 4人は各々木嶋家があった跡を眺めながら、辺りをうろついていた。


 美津子は以前門があった前に立つと、すぐ傍らの門柱が立っていたであろう辺りに何か気配を感じた。

 黒い塊の様な、

「んっ、何?」

 目を凝らして見ると、その塊はやがてはっきりと人の形に見えてきた。


 美津子はその人形ひとがたを見るなり、瞬きを忘れ、目は見開き、指先がブルブル震えだした。震えは指から全身に昇って、頭皮から冷たい汗が額へ降りてきた。

 口は「ヒ」の発音のまま開いているが声は出ない。


 なんとかゆっくり一歩後ずさった後、振り返って車へ走りドアを閉めて中からロックした。

 勢いよく締まる車のドアの音に菊子が気づいて、

「ちょっとミツコ何やってんのよう、カギ開けなさいよ」

 と窓ガラスをコツコツ叩きながら話しかけたが、ミツコは前を凝視したままで震えている。

 仕方がないので、車のキーでドアを開け、男子2人を呼んだ。

「は、はやく、車出して、お願い、は、や、くっ」

 パニック状態で美津子が言った。

 4人は車に乗って走り出した。

「悪いわね、何かミツコの様子がおかしくて」

 菊子が男子2人に言った。

「ミッちゃん大丈夫?」

 淳一が尋ねたが、反応が無い。

「ミツコあんた何か見たの?」

 菊子の問いに美津子はただ何度もうなずいた。

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