第21話「キジマさん」(フ完全版) 6

 耀子はこの事故を起こした運転者を恨んだ。

 しかし、小さな仏壇の前で手を合わせる女性と小さな2人の子供をその運転していた男の家で見てしまったら、その恨みも憤りも行き場を失ってしまった。


 行き場の無い魂は、現場に留まり続けた。


 時折、立ち尽くす耀子の姿を見て「ハッ」として目を逸らす者がいた。耀子はその人に自分の姿が見えているのでは思い話しかけようとするのだが、駆け足で逃げ出してしまう。

 皆、まるででも見るかの様に驚いて逃げ出してしまうのだ。


 やがて、そんな目撃者から噂話が拡がっていった。


「木嶋耀子の幽霊が出る」と。

 

 その噂は耀子が通っていた大学にも届いていた。


「ねえ知ってる、キジマヨウコの幽霊の話」

「キジマさんって、この前事故で亡くなった?」

「そう、そのキジマヨウコ、なんかねあの現場の前で、ボ〜ッとつっ立ってるらしいわよ」

「エ〜怖い、成仏出来てないのかしら?」

「しかもね、顔が潰れてグチャグチャらしいわよ」

「キャ〜」

 聞き手だった女性が悲鳴を上げた。


「今度見に行ってみようか?」

「やめてよっ、怖い」

 話し手の女性は笑みを浮かべていた。

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