第19話「キジマさん」(フ完全版) 4

 ポツリ、ポツリと雨が埃っぽい現場を濡らし始めていた。


 冷たくは無かった。

 雨粒は耀子の手の平を、身体を、通り抜けていった。


 耀子は震えた。

「そんな筈は無い、私はここにいる」

 壊れた家の中で鏡を探した。割れて落ちてしまった洗面台の鏡のかけらで我が身を映してみた。

 そこにはただ雨雲で澱んだ夜の空が映っているだけだった。


「死んでなんかいない、死んでなんかいない、だって私はここに


 耀子は自分の事を考えるのを止めた。


 父と弟の事を想った。

 一瞬、気が遠くなると父が寝ている病室にいた。

 管を通され、ベッドに横たわる父の姿を俯瞰していた。


 医師達の話し声が聞こえる。

「内臓の損傷が激しく手の施しようがないね」

 話していた医師は頭を横に振った。


 弟の事を考えると、また一瞬気が遠くなって、今度は弟の病室へ飛んだ。

 頭に包帯を巻かれた弟の姿があった。

 弟の顔を覗き込んでいた看護師が呟いた。

「お気の毒に」


 気がつくとまた現場である元の家に戻っていた。


 


 

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