第21話 私の最初の残響(エコー)1
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大日本SF出版は地球の、日本という地域にある出版社ですが、M22の所有者である森下悟が働くオフィスがあるのは火星です。
火星の第一都市、マーズワンの商業地区にあるオフィスビルに居を構えています。
地球を、文化的にも文明的にも、しっちゃかめっちゃかにした
その特別さを思えば、大日本SF出版社のオフィスは極めて質素と言えます。
M22はオフィスでの定位置である、来客用の受付に設置したソファに座りながら、自社のCMを流す為の大画面のモニターで『エイリアンVSアバター6 愛は無限』を鑑賞していました。
え? あの後どうなったんだ、ですって?
この戦闘警備ユニットが書くブログなんて物を、ここまで読んだ暇人の方々には教わる機会が無かったのだろうと思いますので、今覚えてください。
貴方が手に持っているお手元の端末は、ただの光る板ではないんですよ?
このブログがネットワーク上に上がっている時には、既に貴方がたは全て自分の検索能力で真実に辿り着ける状態となっているはずです。
調べましたか? もしくはニュースフィードをスクロールするだけでも良いでしょう。
おそらく読者の皆様はこんなニュースに出くわしたと思います。
見つけましたか? そう、ソルン社のスキャンダルを伝えるニュースで賑わっている事でしょう。
ちなみに、M22が一番気に入っているタイトルは、ソルン社、初代経営者の霊魂を交霊術でこき使う超絶ブラック企業だった! です。
中々に馬鹿馬鹿しくて好きです、それでいて、確かに酷い話だと納得できます。
「おい、警備ユニット。客に出すお茶っ葉の場所が分からん」
M22が『エリアンVSアバター6 愛は無限』の最高のシーン。
エイリアンが捨て猫を庇って重傷を負うシーンを鑑賞していると、背後から声が掛けられました。感動の名シーンなので邪魔しないで欲しいです。
「給湯室のシンクの左側にある棚の二段目ですよバレス氏」
そうか、と頷いたバレス氏が何か言いたげにM22の背中に視線を向けてきます。
当然ながらセンサーで気が付いていますが、無視します。
「お前も少しは働いたらどうだ?」
バレス氏は現在、ソルン社をクビになったので、大日本SF出版社でバイトとして雇っています。仕事は主に森下悟のサポートです。
分かりやすく言うと、森下悟のお人好しっぷりにゲンナリするのが仕事です。
「M22は働いていますよ? 戦闘警備ユニットですので、自社の入り口で警備任務についているんです」
バレス氏が何か言いたげに唸ります。
M22は森下悟が首長ティラノサウルスに追いかける時にゲンナリするのが仕事で、バレス氏は日常で森下悟にゲンナリさせられるのが仕事です。
完璧な振り分けだと思います。
バレス氏は何度か言葉を発しようと、口を開けたり閉じたりしましたが、結局は小さな溜息を吐いてお茶を煎れに行きました。
きっと森下悟を客と二人にしておく事に危機感を覚えたのでしょう。
森下悟だけに交渉をさせていたら、早晩、大日本SF出版社は潰れる事になるでしょう。
M22はバックグラウンドで監視カメラをチェックします。
プニプニとしたピンク色の皮膚の宇宙人と森下悟が楽し気に談笑しています。
内容は雑談なので、突然銀河の端まで旅する事にはならないでしょう。
いや、まぁ森下悟の事なので、油断できないですけどね。以前、迷子のペットを届ける為に二百億光年の移動しましたから。
M22は『エイリアンVSアバター6 愛は無限』の鑑賞に戻ります。
え? 本当に説明しないつもりかって?
仕方ないですね。
まぁ仕事柄知っていますので、
ホント、読者って我儘ですね。
でも好きですよ? いや本当に。 ええ、本当に。
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