第18話 望遠鏡を担いでも見えない物は見えない3

 歩きながら、宇宙船までの移動に使う車両の手配を済ませます。

 地表にまで下りられる恒星間の移動を可能とする宇宙船とは、要は経済的効率性の低い物であり、つまりは金持ち用です。


 首長ティラノサウルスもどきを見る為に、経済的非効率性を許容する金持ちの数は少ないようで、経済的効率性を追求した自動化された無駄に広々としたロビーは、閑散としていました。

 死角の数は十分、人目も無い、ここを抜ければ後は車両に乗り込んで宇宙船の中です。


 つまりは最後の機会で、絶好の機会です。

 なので、ホント。マジでもっと緊張感持って貰えますか?


 フランケンシュタインの怪物がSFであるかどうか?から火星シリーズがSFなのか?の流れは完全に戦争一直線なので止めてください。

 馬鹿、ルールス、アルジャーノンに花束を、がSFなのか疑問を持つのは止めなさい。


 ジョン・スコルジーの小説とか、もっと分かりやすくSFな作品を読んでください。


「それでは――」


 ルールスが間違いなく開戦を告げる一発を“かます”言葉を、その口から発する前に事は起こりました。

 監視カメラが一斉にダウン、M22の流体センサーが空気の流れを検知。


 左手で森下悟の襟首を掴み引き倒しながら、右手で同じくルールス掴みこちらに引き込みます。

 二人を胸の中に抱き込むように、地面に伏せながらバレス氏に足払いをかけます。


 電磁投射式の銃なのでしょう。空気を切り裂く投射体の音が聞こえただけです。

 ロビーの備品の幾つかが壊れるのを検知しながら、M22はニューラルネットワークの出力を信じて、計算もそこそこに森下悟とルールスを柱の陰に滑らせるように投げます。


 背後に隠れる場所が無く、挟み撃ちにされる心配が無い事に感謝しながら、受け身をとって素早く立ち上がろうとするバレス氏の襟首を掴み引き摺りながら走ります。

 M22が戦闘警備ユニットであるとは分からなかったのか、こちらの移動速度は相手の予想を超えていたようで、投射体は全て、ツルツルした床と、やたらと複雑に丸い椅子にヒビを入れただけでした。


「怪我は!?」


 柱の陰に走りこんだM22に森下悟が訊いてきます。

 M22の場合は怪我ではなく故障です、そう訂正したくなりますが、M22はTPОを弁えている戦闘警備ユニットであるので言いません。


「本機は大丈夫です。そちらは?」


「二人とも無事だ」


 銃を構えたバレス氏が無謀にも、柱から顔を覗かせて確認しようとしたので、襟首を掴んで引っ込ませます。

 非常に正確な銃撃が柱に三発。


 弾が柱を迂回して飛んでこない、柱の材質が何かは知りませんがそれを抜けない口径である事から、相手の装備が規制の緩い民間モデルの銃器である事が分かります。


「このまま何事もなく船に乗れる事を期待したんですが、相手の間抜けさに少し期待しすぎましたね」


「楽観は悪い事じゃない」


「単なる冗談なので、少しは悲観してください」


 こちらが顔を出すのを防ぎたいのか、柱に向かって銃が乱射されます。

 流体センサーが二つの移動体を検知。相手は最低でも三人か。


「動かないでください」


 M22はそう告げて、銃の乱射が続いている中、柱の陰から飛び出します。

 銃を乱射していれば、柱の陰に相手を留めておける。そう考えるという事は相手はM22が戦闘警備ユニットだと気が付いていない証拠です。


 センサーがロンドロス星語の悪態を検知します。

 銃、詳しくない読者の為に説明すると、おおよそ地球で言う所のサブマシンガンに相当する銃を構えた男が二名、柱を回り込もうとしている最中でM22に驚いて立ち止まっています。


 間抜けさに期待するのは止めたいと、常々思っているのですが、人類のこういう間抜けさを見るたびに失敗します。

 ランダム回避軌道をとりながら近い方の男に飛び掛かります。


 面白いように銃口が惑うあたり、持ち込んだ弾の数はそんなに無いのでしょう。

 とっさに無駄弾を嫌った所から、訓練を受けているのだろう事が分かります。


 殺し合いを完全に機械に外注していない辺り、ロンドロス星人も地球人と同じく業の深い知性体のようです。

 組みついた男の首に掌を当てて電撃を与えます。パナナルナノスを昏倒させる事が出来るので、サイズ的には威力は十分です。


 男の持った銃が間違ってもM22の足を撃たないようにと、銃口を床に向けさせていたので、弾倉が空になる頃には綺麗な床がヒビだらけになりました。

 弾倉が空になるまでの二秒は、他二人に冷静さを取り戻させるのに十分な時間でした。


「こいつ生身じゃないぞ!」


 そう叫んだ男に向かって、気絶した男を投げつけます。

 M22が人間ではないと気が付いたのに、気絶した人型生命体が投げつける為のボール代わりになるとは気が付けない時点で間抜けです。


 推定体重80キロオーバーの男を投げつけられた男は、後頭部を強打して気絶しました。

 それをセンサーで検知しつつ、M22は残りの一人へと距離を詰めます。


 距離がある為に、かなり大きなランダム回避軌道を行わなければならず、脚部から過負荷に対するフィードバックが列をなします。

 何故自分の体から文句を言われなければならないのか?


 遮蔽物でかく乱しつつ、ばら撒かれる投射体を確立と運とセンサーで避けながら、最後の一人に肉薄します。


「がぁ!」


 男がフィクションの中でも聞く事のない、独特な叫び声を上げて手にもった銃器を鈍器代わりに振り回しますが、まぁ有機生命体のスペックで戦闘警備ユニットに勝とうというのが、土台無理な話です。

 M22は軽く男を制圧すると、電撃で意識を奪いました。


 そのまま男の持っていた銃器を手にして立った時でした。

 M22は賭けに負けた事を認めました。


「動くなよ、警備ユニット」

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