第14話 複雑な解決方法から検討するは、愚か者の証拠です8


 なぜ、この当たり前の事実が出力されなかったのか?M22は警備ユニットとしての自己のアイデンティティに強烈な疑問を感じざる得ません。

 この二人は最初、首長ティラノサウルスに追いかけられていたのです。ルールスを捕まえて次代の経営者にしようとしているのなら、それは大いに矛盾する行為です。


「はい、その通りです」


 言おうと思ってたんですよ? そう言いたげな顔をしてルールスがM22の発した疑問に答えました。

 話が横にそれたのは森下悟のせいなので文句は言いません。


「私がこの外部脳アウターを持っている限りは、他の人間に、というわけにも出来ませんので。一族の中には私が死んでいようが生きていようが気にしない、という者も多いみたいですね」


 そう言ってうなじ外部脳アウターを見せるルールスを見て、M22の生体脳が不愉快を感じているのを検知します。

 まるで鎖を自慢する奴隷のよう、ですか。

 

人類が己の不自由さと、不自由さを嘆き皮肉る語彙の多さには時折感心します。

 M22を縛る倫理規定の多さにはかないませんが。


「それじゃあ、それを壊しましょう」


 森下悟が野蛮かつ魅力的な提案をします。


「馬鹿を言うな! 姫を殺す気か!」


 バレスの叫び声が、その魅力的な提案が不可だと教えてくれました。

 まぁ当然でしょう。思いつくシンプルな対策というのは、既に考えられた後である可能性の方が高いのです。(複雑な解決方法から考える者を愚か者と言うのですよ? 知っていましたか?)


「外すと死ぬのですか?」


 遠回しに訊く理由も無いので、直截に訊きます。

 頷くルールスの姿に、やはりシンプルな解決策をとりたくなります。外部脳アウターを壊して、彼女が死にM22と森下悟は何も知らない体で地球に帰るのです。


 暫し(何度も言いますが、M22の暫しとはナノからミリ秒の事です)その魅力的な考えを転がします。まぁ、無理でしょう。

 M22の暫し(本当に何度も言いますがミリ秒とかの単位ですよ?)の沈黙は、森下悟の言葉で埋められました。


「それじゃあ、やっぱり地球に行きましょう」


生体脳が主幹メインの有機生命体のくせに、この男はノータイムで!


「その提案の理由は?」


 M22のニューラルネットワークが、その質問の答えを98%以上の確度で提示していましたが、訊かずにはいられませんでした。


「時間が稼げる」


 M22のニューラルネットワークが、森下悟という“重み”で強化学習されているのが良く分かります。

 つまり予想通りの答えでした。


「問題の解決にはなりませんが?」


「人の命が掛かっているんだから、最終的解決よりも先に安全の確保だ」


 最悪です、最初に提案された複雑な解決方法に着地です。


「おい! 勝手に話を進めるな!」


 バレスの非常に常識的な言葉に感心します。

 これからはバレス氏と呼びましょう。


「お願い出来るのでしたら」


 ですが問題の主幹メインであるルールスは、非常識だったようです。

 これからもルールス呼びで良いでしょう。


「姫様!?」


 驚くバレス氏に親近感を感じます。


「バレス、どのみち私に選べる選択肢は少ないのです。最後に聖地巡礼するのも悪くないでしょう」


 まるで敬虔な何かの信徒のような発言ですが、SFオタクが言う聖地巡礼です。


「今から地球に向かうとしたら、8月31日に舞浜に行けたりします?」


 ゼーガペインのネタが分かる宇宙人を前にして、森下悟が苦笑する。

 あんな宇宙人ウケのしない古いSFアニメまで知っているとは、この女、ガチだ。


 無理ならエリア51でも良いんですけど。

 M22は、更なる無茶を言い出すガチオタを見ながら、生体の反射反応で出そうになる溜息を押し殺します。


 バル・ベルデ共和国のジャングルにでも連れて行ってやりたい気分になります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る