第12話 複雑な解決方法から検討するは、愚か者の証拠です6

 はい、碌でもない話が出てきました。

 汎知性連合はあくまで連合なので、法律諸々は各政府に依ります。


 それでもこれは割と碌でもない話です。

 生体脳への模倣知能EI、もしくは人工知能AIの移植、これは汎知性連合の言う知性的にはアウトです。


 連合に加盟しているというのなら、ロンドロス政府はそれに準じた法律を作っているハズです。


「それは……」


 森下悟がセンシティブ判定に引っ掛かりそうな画像を見たような顔をします。


「ええ、普通にやればロンドロス星でも違法となります」


 そう言ってルールスがそっと、自分の髪をかき上げて首筋を見せてきます。

 護衛のバレス君は話が始まった時点で諦めているのか、うなり声のような溜息を吐きながら目頭を押さえています。


 やはり人類型(M22はこの非常に傲慢な表現が気に入っています。実に人類らしくて素敵です)の知性体は似通った仕草をします。

 まぁ自分の主人が、その一族のウィキにも載ってないような秘密を曝け出したら、そんな声も出るのでしょう。


 M22はルールスのうなじに張り付く銀色の板のような物を見ます。

 相変わらず情報遮断フィールドのおかげで肉眼頼りですが、それでもそれが何か分かります。


 形は違いますが良く知っている物だからです。


外部脳アウターですね?」


 疑問形で言いましたが確信しています。

 これも知性体との円滑な会話のテクニックです。


「はい、外部脳アウターです」


 ルールスがサプライズのない返答を返しながら髪を降ろす。


「成る程」


 M22はワザと生身の目でバレスにちらりと視線を飛ばします、


「法の抜け穴という物ですね」


 残念ながら視線を飛ばした先のバレスは諦めたように無表情で地面を見つめていたので無駄でした。


 わざわざ生身の目を動かしたと言うのに、サービス精神の無い有機体です。


外部脳アウターの運用方法は個人の権利の範疇である、というのがロンドロス星の法律です」


 ルールスの説明に森下悟が首を傾げています。

 さっきまで言わなくても良い事をペラペラと喋っていた癖に、突然に不親切になるのは人類の悪い癖ですね。


外部脳アウター主幹メインにするのは個人の自由だという事ですよ」


 M22が補足してやります。

 ソルン社は初代経営者の模倣知能を作り、それを代々外部脳アウターで動かし、それを引き継いできたのでしょう。


 当然ながら、外部脳アウターを主幹とした場合、本人の人格には多大な影響が出でます。少なくともルールス本人のニューラルネットワークは、不可逆な変質を起こす事になるでしょう。

 おそらく、好きな物も、嫌いな物も、笑いのツボも、ナイフとフォークの持ち方も、外部脳アウター主幹メインとした後では、まったく違う物になります。

 成る程、と森下悟が呟き眉間に深い皺を作ります。


「ルールスさん」


 森下悟の声に、M22は咄嗟に叫びそうになりました。

 このまま森下悟に何かを口走らせるより、突然叫びだした頭のオカシイ戦闘警備ユニットと思われる方がずっとマシだと確信したからです。


「地球に来ませんか?」

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