第9話 複雑な解決方法から検討するは、愚か者の証拠です3


「訂正があります」


 M22は生体の目をバレスに向けて言います。地球人類と同系統の外見的特徴を持つ知性体は相手の目を見て話すという行為に大きな意味を感じます。

 センサーではルールスの姿が見えなくなりますが、そも彼女は彼の背後に居ますので肉眼でも殆ど見えませんので問題はないでしょう。


 バレスがM22に見つめられて一瞬だけ狼狽えたようでした、小声で生体を使った戦闘警備ユニットなどこれだから野蛮人は――と言ったようですが、M22の読唇術ニューラルネットワークは正確度を82%と言っているので、彼がM22を褒め称えた可能性も否定できません。

 まあ彼が地球人を野蛮人と呼ぶのに大した反論も無いですが。


「M22は貴方がたの事をは知りませんでした」


 M22の言葉にバレスが眉をひそめます。


「さらにもう一つ、M22に通信妨害の類いは効きません。こう見えても軍事用途にも耐えうるスペックですので」


「そんな物を個人が」


 持てるはずが無いとバレスがM22の言葉に当然の疑問を口にしようとしますが、最後まで言わせません。


「ええ、そうですね。普通は個人が所有を認められる物ではありません。野蛮人にだって法はあるんですよ?」


 最後の皮肉にバレスはバツが悪そうな顔をします、その顔が余りにも素直すぎるので思わずこの人は悪い人では無いのでしょう等と考えてしまいます。


「ですが法であるなら抜け道もまたあります。その辺りはM22達よりも貴方がたの方がお詳しいかと思いますが?」


 M22の質問にバレスは思い当たる節があるのか曖昧に頷くような仕草をします。

 正直彼らが法の抜け穴を突くような事をしているかどうかは重要ではなく、M22の質問に応えてくれるかどうかが重要です。


 つまりはM22達は敵ではなく会話が成り立つ相手だと信じてくれる事が、です。

 森下悟が今すぐこの何らかのトラブルに巻き込まれているだろう二人を見捨ててくれるなら、こんな事をしなくても良いのですが。


 M22はチラリと森下悟の顔を確認します。

 焚き火の光に浮かぶ森下悟の顔は、明らかにM22ではなく彼らを心配している顔です。


 彼にはM22が話しだすと同時に、ソルン社の概要とその次期社長が行方不明になっているというニュース記事を送信しているので、生身の脳しか持っていない彼でも、もう理解している事でしょう。

 自分が楽しく話していた相手がその行方不明の次期社長であると。


 それでいてこの顔です。

 見捨ててM22が今日中にソファの上でアニメを見れる可能性は皆無です。


 森下悟が真剣な顔で口を開きます、出来ればずっと閉じておいて欲しい口を。


「もしよければ私たちに事情をお聞かせ願えませんか? その……」


 言い淀む森下悟の言葉をM22が引き継ぎます。


「貴方がたが突然に野営趣味に目覚めたとかで無ければですが」


 皮肉で引き継いだM22を森下悟が睨みますが無視しました。


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