第2話 自己紹介をしましょう、それは対人関係の第一歩です2

 *


「M22の仕事は貴方を守る事です」


 M22はドヤ顔を決める森下悟に冷めた顔で言い返しました。戦闘警備ユニットであるM22は間違っても地球で豪邸に住んでいるSF作家の為に命をかける事ではありません。

 まあ命なんて無いのですが。


 M22は片腕で抱えていた森下悟を、俗に言うお姫様だっこの状態に抱え直すと走る速度を上げました。

 ダイヤモンドよりも固い皮を持つ木の森を時速七〇キロで駆け抜けます。


 森を抜けるとそこは草原です、草原であればM22は更に速度を上げる事が可能です。

 パナナルナノスは本物のティラノサウルスよりもかなりの高速で走ることが出来ますが、流石にM22の最高速度よりは遅いです。


 脚部への出力を更に上げようとした時でした。

 M22のイメージセンサーは実に嫌な物を捕らえました。


「おい!」


 森下悟がM22の顔を見ながら言いました。


「はい気が付いています」


 M22は森下悟の顔を見ないようにして言いました。


「追われていますね」


 M22のセンサーは複数のパナナルナノスに追われる一台の陸上駆動車を捕らえています。


「おい!」


 森下悟がもう一度声を上げます。

 嗚呼、聞きたくありません。


 お願いですからその先は言わないでください。


「助けに行くぞ相棒」


 この(以下ブログ掲載サーバーの規定により表示できません)野郎。


「M22の事を相棒と呼ぶのはやめてください」


 M22はせめてもの抗議と非難を込めてそう言いました。

 森下悟はそれをどう受け取ったのか、流石は俺の相棒だとM22の腕を叩きます。


 やはりバカです。

 それも特大の。


 読者の方々にとってはネタのように感じると思いますが、残念ながら森下悟はこういう人間なのです。本当ですよ? 一度実物に会ってみてください。M22が何一つ嘘をついていない事が半日以内には分かると思います。


 *


 M22は正気の行動とは思えませんが進路を複数のパナナルナノスに追われる車へと変えます。

 観光用車両は観光用としては十分以上の速度を出していますが、パナナルナノスを振り切るには十分な速度ではありませんので、パナナルナノスを迂回して運転席側に走り寄るのは容易な事でした。


 運転席に座る男がぎょっとした顔でM22を見ますが、M22が前を見るようにとジェスチャーで示すと運転に集中してくれました。

 ここで運転ミスでも起こされたら面倒な事この上ないので助かります。


 ついでに窓を開けてくれると助かったのですが、そこまで気が回らなかったようなので車両のコンピューターをハッキングをして開けます。

 運転席の男が再びギョッとした顔でM22を見てきました。


「こんにちは、M22は地球の大日本SF出版社の戦闘警備ユニットです」


 再び前を見るようにとジェスチャーで示しながら自己紹介をします。

 運転手の男が再び前に意識を戻しながら何かしら地球言語外の言葉で何か呟きます。


 グーグル翻訳によると、何なんだコイツら、だそうです。

 見た目が地球人と殆ど変わらないので地球人かと思ったのですが違ったようで、グーグル翻訳を信じるなら彼はロンドロス星出身のようです。


 まぁ地球人に青い髪がいないのは知ってはいるんですが、これでもM22はアニメの国出身なのでその可能性を捨てきれないのです。

 言語をロンドロス星の物に変更して再び声をかけます。


「こんにちは、M22は地球の大日本SF出版社の戦闘警備ユニットです」


 母星の言語に安心したのか、それともM22が戦闘警備ユニットだと分かったからなのか、男の顔が巨大なティラノサウルスもどきに追いかけられている最中だとは思えない程に明るくなります。


「戦闘警備ユニットだと! 助かった! 後ろの獣どもを何とかしてくれ!」


 どうやら理由は後者だったようです。

 M22は両手に抱えたタンパク質の荷物、森下悟をとりあえず車の屋根の上に乗せました。


 運転手の男と森下悟が期せずして同じ表情を浮かべます、お前はいったい何をするんだと。

 M22も期せずして二人に同じ疑問を投げかけたくなります、両手が塞がっている状態でどうしろというのですかと。


 森下悟には屋根にしっかり捕まっているようにと言い、運転手の男にはスピードは落とさなくて良いので出来るだけまっすぐ走るようにと言うと、M22はこの余計な仕事を片付ける為に行動に出ました。

 読者の皆様の中に戦闘警備ユニットとご契約になった方はいらっしゃるでしょうか?


 いらっしゃった場合、おそらくですがリースによる契約だったかと思います。

 保険会社か警備会社、もしくは民間軍事会社からのリースであり、森下悟のように個人で所有契約している方は恐らくいらっしゃらないと思います。


 まぁ当たり前な話なのですが、戦闘警備ユニットであるM22はつまる所は武器なのです。

 国によっては所有そのものが違法である場合すらあります。


 森下悟は出版社社員という特権を使いM22を個人で所有していますが、それでも普通は出来るような事ではありません。

 法的にも費用的にも。


 森下悟は色々と諸事情がありM22を所有していますが、その点は長くなるので省略させて頂くとして――そのおかげでM22は極めて自主的に動けるのです。

 つまりは自己改良などがおこなえます。


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