火星の編集長
たけすぃ@追放された侯爵令嬢と行く冒険者
第1話 自己紹介をしましょう、それは対人関係の第一歩です
こんにちは皆様。
初めましての方々には、どうも初めまして。
中島通信工業社製、戦闘警備ユニットNTK-M22です。
M22のブログを読もうという、奇特かつ出来うる限り早期に精神科医へのご相談が必要な方々に今現在M22がどういった状況でこのブログを書いているかをご説明いたしますと。
M22はエルダス星人所有の商業自然保護星、みんなおいでよエルダスパーク星(正気を疑う名前ですが正式名称ですよ?)にて、M22の雇い主であり所有者である森下悟を契約に基づき警護している最中にバックグラウンドで書いています。
仕事中にブログを書くなんて、と思われた地球人類の方々にはM22が生体部品と機械部品で出来た戦闘警備ユニットである事を思い出して頂きたいです。
M22にとっては仕事中にバックグラウンドで、戦闘警備ユニットの書くブログを好んで読むような頭のオカシイ人向けの文章を書くぐらいは簡単な事なのです。
例えその腕に雇い主である森下悟を抱えながら時速七十キロメートルで走っていたとしてもです。
なぜそんな事に?
それはこのみんなおい……長いですね、エルダスパーク星の固有野生動物である、パナナルナノスに追いかけられているからです。
パナナルナノスが何か分からない?
良いでしょうM22は親切な戦闘警備ユニットなのでお教えしましょう。
パナナルナノスを一言で表すのなら、首の長いティラノサウルスです。
それも往年の名作である映画ジュラシックパーク寄りの体毛の無いティラノサウルスです。
頭部は流石にティラノサウルスよりも小さいですが、その口には凶悪そうな牙がずらりと並んでいます。
ですが見た目に騙されてはいけません。
あなたがた人類は簡単に見た目に左右されてしまいますが、賢いM22には宇宙規模にまで広がったインターネットを使う知能が備わっています。
パナナルナノスは草食性の大人しい動物なのです。その鋭い牙は彼らの主食である、極めて固い植物を食べる為の物であり肉を切り裂く為の物ではありません。
本来であれば至近距離で観察しても、その巨体にさへ気を付ければ何の心配もない動物なのです。
皆さん一つ賢くなれましたね。
生体脳しかない皆さんでは記憶の保持すら難しいでしょうが、数時間だけでも(数分ですか?)賢くなれましたね。
さてそんな無害なティラノサウルスもどきになぜ追いかけられているかというと。
M22の雇い主である森下悟が、あろう事かそのティラノサウルスもどきの口に手を突っ込んだからです。
バカなんでしょうか?
*
「バカなんですか?」
未舗装の地上移動車用の道を走りながら脇に抱えた森下悟に尋ねてみました。
「し、舌の感触を確かめたくてつい」
森下悟は自分の舌を噛まないよう気を付けながらM22の質問に答えてくれました。
バカかどうかを尋ねたのに、手を突っ込んだ理由を答えるあたり質問の意図を計るだけの知能はあるようです、ですが。
このバカは(疑いようのないバカでした)その知能を舌の感触を確かめる為に食事中のパナナルナノスの口に手を突っ込む前に発揮すべきでした。
驚くべきバカです。
「そんな目で見るなよ、作家先生が知りたがるかもしれないじゃないか」
M22の目に隠しようのない呆れが浮かんでしまったようで、森下悟が言い訳を口にします。
「SF作家の為に命を張るのが俺達の仕事だろ?」
森下悟がM22に同意を求めてきましたが無視します。
それにM22の仕事は雇い主であり所有者である森下悟を守る事であって、地球で缶詰にされているSF作家の為に命を賭ける事ではないからです。
*
察しの良い方(このブログの読者にそんな方がいらっしゃるとは思えませんが)は既にお気づきでしょうが。
M22の雇い主である森下悟は出版社の人間です。
そう、あの『ビッグマーケットデイ』から地球の基幹産業となった出版社の人間です。
まさか地球人で『ビッグマーケットデイ』が何かを知らない人はいないでしょうが、万が一ですが万が一このブログの読者に地球人以外の人がいた場合を考慮して説明させて頂きます。
今から二十二年前、地球人類がスマートホンでチマチマと写真を撮ったりしていたあの日。
遙か銀河の彼方より汎知性連合の貿易艦隊がやって来た日。
人類が犬との最良の取引を成立させた時(M22注釈 犬は餌と引き替えに人の良き友となった、これは人類がおこなった最良の契約である)以来のビッグチャンスの日。
小型の常温核融合炉、超光速通信技術、超光速移動技術、ナノマシン技術、電力変換効率九割超えの太陽光発電システム、医療技術エトセトラエトセトラ……。
それらに見合う商品を出そうと、並べられる物を並べられるだけ並べたあの『ビッグマーケット』を開いた日。
地球上にある、ありとあらゆる価値ある物が、無価値であると値札を付けてまわられた日。
数合わせだったのか、ヤケクソだったのか。
会場の隅にひっそりと
異星の商人達に並べた商品を散々無価値と(もちろん失礼の無いように)言われ続けていた地球人達の代表は、トルル星人がその触手のような腕をそれに伸ばした時もまったく期待していませんでした。
期待していなかったどころか、こんな物を並べるスペースがあるのならもっと他の物を並べるべきだとすら思っていました。
ですがそれを触手に取り、五つある目を
やにわに体表を興奮を表すピンク色に変色させながら(ちなみに地球代表の一人はそれを怒りだと勘違いして大層慌てました)他の商人達に興奮したように連絡しだしました。
後にそのトルル星人はこう語っています。
「もし価値ある物を見つけた場合は速やかに全ての商人に連絡する、という協定が無ければその場で全てを独占しただろう」と。
かくしてその地球人類の殆どに期待されていなかったその小さなブースは、汎知性連合の商人達でひしめき合う事になったのです。
彼らはセルロースの加工品と、その表面に書かれた文字を作り出す者を求めて、極めて上品に争いだしたのです。
呆然とそれを眺めていた地球人代表の男はブースの担当者に尋ねました、アレは何だね? と。
同じく呆然としていた担当者は答えました。
「SF小説です」
と。
こうして地球人は『ビッグマーケット』でビッグバイを成し遂げたのです。
その後の汎知性連合の商人達と地球人代表達は非常に素早く動きました。
商人達はこの手の商品に必要なのは質の維持であると承知していましたし、地球人代表は諦めかけていたチャンスを離すまいと必死だったのです。
商人と政治家が手を組むと大抵は碌な事になりませんし、この場合もやっぱりそうでした。
こうして出版社の設立は国の認可制となり、またSF作家はその想像力を遺憾なく発揮するという名目の元に、莫大な報酬を対価に地球から出る事を禁じられ、地球外の情報からも遮断される事となったのです。
彼らSF作家は超新星爆発見学ツアーにも行けませんし、ブラックホールゴミ処理場に社会科見学に出かける事も出来ません。
全ては彼らの想像力の保護の為です。
幾つかの国のSF作家協会は著作権を盾に国家への反逆を
それからもどうにかして宇宙に行きたいSF作家と国家との間に色々あり、その間に汎知性連合所属の各宇宙人の暗躍があり一つの妥協点が結ばれました。
取材は許可する、ただしSF作家が直に行く事は禁止する。
結局SF作家は地球から外に出られないじゃないかと思われるかもしれませんが、彼らの大多数はインドア派だったので宇宙の事が分かれば大半のSF作家はそれで良かったのです。
こうした理由によって森下悟はパナナルナノスの口に手を突っ込んだのです。
***あとがき***
始めましての方は、初めまして。
カクヨムで連続投稿をすると、リワードが貰えるキャンペーンが始まりましたので。
チャレンジしてみようと、昔書いた短編を引っ張りだしてきました。
短い間とはなりますが、読んで楽しいと思っていただけたら幸いです。
連続投稿チャレンジ用に、変な所で次話に引く事になると思いますが
毎日投稿になる「はず」なので、許して頂けると嬉しいです。
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