第40話 ガーネット子爵家
ベッドに寝転がりながら、ぼんやりと天井を見つめる。
精霊省であれこれ証言してきたので、疲れた。
そこでアンジェラに会うことはなかったけど、彼女は素直に取り調べに応じているという。
ガーネット子爵が首謀者だと彼女自ら話したため、お父様が即座にガーネット家に乗り込み、子爵を捕縛・子息を保護して証拠資料を押収した。
詳しくは教えてもらえなかったけれど、代々闇の星獣を使って酷い実験を行ってきたらしい。
実の娘二人に闇の卵を植えつけるくらいだから、非道なことをいろいろやっていたのだと思う。
跡継ぎということもあって子息は無事だったようだけど、ルビーノ家を憎むよう教育されてきたらしい。
ただ、アンジェラが優しい子だと言うだけあって、取り調べにも協力的で、ルビーノではなく父親を憎んでいるとのこと。
今回の騒動の発端は、子爵の祖父である初代ガーネット子爵にまで遡る。
初代子爵は、まだルビーノ公爵子息と呼ばれていた頃、勤めていた精霊省で闇の星獣の卵が出現する瞬間を偶然目撃し、密かに卵を盗んだ。
その後弟との跡目争いに負けて子爵となったため、ずっとルビーノを恨んできたのだとか。
そしてルビーノ家を出る前に精霊之書を汚損し、ルビーノ家直系をすべて滅ぼして自分が公爵となるためにおぞましい実験に手を染めていた。
ただ、その野望はかなうことなく、実験の最中に事故か何かで亡くなったらしい。
その息子である二代目子爵は、ルビーノを滅ぼすことにあまり積極的ではなかったものの、亡き父親のために実験を続けてきた。
そして現子爵は、闇の星獣を植えつけたアンジェラを利用して私を貶め、ルビーノの評判を地に落とそうとした。
その動機というのが、祖父の無念というだけでなく、おそらくアンジェラの言っていた“横恋慕”。
濁されてはっきり教えてもらえなかったけれど、おそらく子爵はお母様のことが好きだった。けれどお母様がお父様と恋愛結婚したことで、勝手に恨みをつのらせていたのではないかと。
三代目子爵がルビーノを根絶やしにして自分が公爵になるなんて無理だとわかっていただろうから、せめて二人の子供である私の人生を滅茶苦茶にし、なおかつルビーノの評判をがた落ちにして、お父様やお母様を苦しめてやりたかったのかもしれない。
そんなもののために卵を植えつけられたと、アンジェラが言っていた。
本当に、身勝手でくだらない理由。
その点についてだけは、彼女に同情を禁じ得ない。
けれど。
アンジェラは、たしかに彼女自身の意思で私を貶めた。
あの死を経験していなければ、アンジェラは悪くない、彼女はああするしかなかった、悪いのは子爵だけだと思ったかもしれない。
でも、本当に彼女がただの被害者だったなら、死にゆく私にあんな言葉をかけたりしない。
父親を失脚させるにしろ闇の卵からの解放を目指すにしろ、私を通じて密かに
だから、彼女を憐れまない。
スノウがぴょんとベッドの上に乗ってくる。
心配そうに私の指を舐めた。ざらざらしていてちょっとだけ痛いけど、かわいい。
「ねえ、スノウ。あなたは前回、アンジェラと契約してから、彼女に巣食う闇の星獣を滅ぼすことができたの?」
『ニャー……』
「……できなかったのね」
スノウはアンジェラに噛みつき、傷口から光の力を流し込んで闇の星獣を引きはがした。
でも、前回はアンジェラと契約していたから、それもできなかった。星獣は契約者を傷つけることはできないから。
それでも、スノウと契約したことで孵化を抑えられていたのかもしれない。
闇の星獣から解放されて、今、彼女は何を思うのだろう。
そうして、二週間ほど経ち。
ガーネット子爵家の処遇が決まった。
ずいぶんと早いけれど、四大公爵家もあれこれかかわっているし今回の件をさっさと収めて必要以上の混乱を防ぎたいという王家の意向らしい。
まず、ガーネット子爵家は取り潰し。
ルビーノ家も傍系の管理不行き届きで注意を受けた。
子爵の判決はまだ出ていないけれど、もう二度と外の世界を見ることはないだろうということだった。
まだ十三歳と幼い子息は、西方教会の修道士になることになった。
西方教会は主に貴族で構成されており、それなりの地位にある人の身元保証がないと入れない。
罪を犯して取り潰された家の子息としては破格の扱いで、これはアンジェラの取引の結果でもある。
彼女は、犯罪に手を染めていない弟の処遇を良くしてもらうことを条件に、子爵家について洗いざらい話した。
取引とはいえ本来ここまで厚遇されることはないのだけど、「管理不行き届きの責任」と、お父様が身元保証人を引き受けた。
没落貴族の子とはいえ、ルビーノ公爵自ら身元保証人となっているので、理不尽な扱いを受けることはないだろうということだった。
そして、アンジェラは。
北部の女子修道院に入ることが決まった。
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