第27話 模擬舞踏会
今日は特別な授業の日。
その名も模擬舞踏会。
二年生と三年生が合同で行う授業で、その名の通り舞踏会形式で行われる。
生徒は家でドレスアップし、午後から学園の大ホールへと向かう。
授業であるため昼間行われるけど、服装などは夜の舞踏会を想定したものになる。
前回の生で、私はアンジェラとよく似たドレスを着た。もちろん、彼女の希望で。
ピンク色の、ふわふわスカートと花のモチーフの愛らしいドレス。彼女にはとてもよく似合っていたけれど、私にはまったく似合っていなかったと今ならわかる。
顔立ちはきつめで大人っぽく、髪も赤の巻き毛で派手、ついでに体つきも凹凸がしっかりあるタイプとなると、淡い色合いの愛らしいドレスは似合わない。
おそろいドレスはもう作ってしまったけれど、衣装室の奥にしまってある。
今回のドレスは、かなり控えめなデザインにした。
派手な赤い髪の私には、そっちのほうがしっくりくるのよね。
色は少しだけ青みがかった深い緑の、ノースリーブのドレス。首から胸元にかけての部分と手袋は、繊細な刺繍を施したレース素材。
スカートは前回と違ってパニエを使ったふんわり広がるタイプではなく、広がりが控えめでゆるやかに流れるデザイン。スカートを彩る白の小花の刺繍が美しい。
そして蜘蛛の糸を紡いだかのような極薄のストールを羽織って出来上がり。
髪はいつもよりも巻いて片側に流した。
うーん、私ってこうして見るとスタイルがいい。お兄様と話して以来、走り込みも頑張ったものね。
今までアンジェラの真似をするばかりで、自分の良さをいかそうという気持ちが足りていなかったわ。もったいない。
そんなことを考えながらソファに座って待っていると、コニーがノックの後に入ってきた。
「リアム様がお見えです」
「今行くわ」
立ち上がって、扉の前の大きな鏡に映る自分を見つめる。
化粧、ヨレていないかしら?
口紅を塗っているけど、派手だと思われないわよね?
そんなことを思いながら鏡を見る私に、コニーがなんとも言えない笑みを浮かべる。
「お嬢様はとーってもお美しいですよ。完璧です! リアム様もきっと見とれてしまいますよ~」
「べ、別に彼にどう見られるか気になって鏡を見たわけじゃ。身だしなみのチェックよ」
「さようですか、うふふ」
落ち着かない気持ちのままコニーに先導され、階段のところに立っているお兄様を見て驚く。
「お兄様? なぜここに」
「リアムが待っている玄関ホールまでは僕がエスコートしていこうと思ってね。階段を下りるにもエスコートが必要だろう?」
「ありがとう。今日はお仕事は?」
「星獣の件で今は出勤が交代制になってるんだ。今日は夜からだよ」
「そうなのね」
前回は、お兄様がこんな風に来てくれることはなかった。
きっと関係が改善したおかげね。
「しかし……あれだな」
お兄様が顎に手を当てて、真剣な表情をする。
「?」
「またずいぶん男心をくすぐりそうなドレスだな」
「えっ!? 色もデザインもかなり控えめよ!?」
「ローゼリアみたいなタイプの子は、そんな感じのほうがぐっとくるものなんだ。かわいい妹が男たちにおかしな視線を送られないか心配だが、リアムが一緒だしまあ大丈夫だろう」
「お兄様ったら」
褒め言葉なのか本心なのか冗談なのかよくわからないけれど、とりあえず差し出された手を取って一緒に階段を下りる。
玄関ホールで待っていたリアムを見て、ドキッとしてしまった。
黒を基調とした服装がとても似合っている。いつもは無造作に下ろしている前髪も、今日はサイドを後ろに流していて、貴公子といった言葉がぴったり。
彼は私の姿を見てぱっと視線をそらす。お兄様が、小さく笑った気がした。
「このとおりローゼリアはすっかり魅惑的な姿になってしまったから、学園では頼むよリアム」
「……承知しました」
そう言ってリアムが手を差し出す。
私はその手に自分の手をそっとのせた。
玄関ホールの隅にいたお父様は複雑な表情を浮かべ、お母様は小さく拍手している。なぜ拍手。
そのまま玄関を出て、リアムの手を借りて馬車に乗り込んだ。
婚約者やその候補と一緒に会場まで向かうのは、馬車の混雑を少しでも解消するため。
普段と違って学年によって登校時間がずれているということもなく歩いて来る人も少ないから、婚約者のいない同性で乗り合わせて行ったりもする。前回は、もちろんアンジェラと一緒に行った。
馬車が動き出して、しばらく無言だったリアムがようやく「その……」と口を開く。
「なあに?」
「いや……。ローゼリアがすごく綺麗で驚いた」
少し目をそらしながら、リアムが言う。
予想外にストレートに褒められて、心臓が跳ね上がった。
「あ、ありがとう。リアムもとても素敵よ」
「そう言ってもらえてうれしいよ。いつも以上に綺麗なローゼリアと踊るのが楽しみな反面、他の男たちが君に群がってくるかもしれないと思うと心が騒ぐ」
そう言われて、心臓がさらに激しく騒ぐ。
それってどういう意味? と問おうか問うまいか迷って、言葉が出てこない。
そうしてあれこれ考えているうちに、馬車が停まる。学園に着いたらしい。
歩いていけるくらいの距離だもの、馬車ならあっという間なのよね。
彼の手を借りて馬車から降りて歩き出すと、周囲がざわついた。おそらく好意的な意味でのざわつき、だと思う。
でも、浮かれている場合じゃない。
この会場にはアンジェラがいる。
人が多く集まるこの場だから、回帰前と違って何か仕掛けてくるかもしれない。
ましてや会場はあの卒業記念パーティーと同じ場所。
あの悪夢が頭の奥をちらついて寒気がしたけれど、リアムに軽く手を握られてはっとする。
隣を見上げると、いつもの優しい笑顔。
「行こうか」
「ええ」
私は覚悟を決めるようにまっすぐに前を見つめ、リアムにエスコートされながら会場へと入った。
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