第10話 復讐計画
せっかく過去に戻ったのにそんなくだらないことをと思われたかしら。
けれど、彼はにやりと笑った。
「へえ、いいね。面白そうじゃん」
「賛同してくれるの?」
「君の人生を壊した女だからな。孤立させ自分を頼らせ、それを利用して君を貶める。挙句犯してもいない罪を君に着せ、事故死させたんだ。復讐したいと思って当然だろう? で、どうやって潰すんだ」
面白そうと言わんばかりに、彼が身を乗り出す。
「まずはアンジェラと友情関係を保ちつつ、彼女の思い通りにならない私を見せつけてこまめに悔しがらせる」
「うんうん」
「あとは勉強を頑張って彼女を見返す。周囲の評価上昇にもつながるし、何より自分のためになることだから」
「それも大事だな」
「あとは……そうね。あの取り巻き、宰相子息デリックと騎士団長子息オリヴァーをなんとかしてアンジェラから引きはがさないと。あの二人は影響力があってなおかつアンジェラに傾倒しているから、何をするにも邪魔だわ」
「あの嫌味眼鏡と筋肉バカね。たしかに邪魔だな。それで?」
リアムの口の悪さに苦笑する。
彼は七歳まで下町で育ったから、気を抜くとこんな感じの話し方になるのよね。
そういえば、あの二人は婚外子であるリアムのことを見下しているという噂をちらりと聞いたことがある。仲が悪いのかもしれない。
「同級生たちの印象も少しずつ変えていくわ。私への印象を良くして、アンジェラが卑怯者だと少しずつ知らしめていく」
「なるほど。あとは?」
「アンジェラの企みを皆の前で暴く。以上ね」
「それだけ?」
そう問われて、私は首をかしげる。
「そうだけど?」
「甘すぎだろ」
「えっ!」
驚く私に、彼があきれたようにため息をつく。
「お人よしなんだよな、結局。まあそういうところが……」
「?」
「とにかく。ローゼリアはそれでいいのか?」
「ええ。家の力関係を考えると、やりすぎればかえって私の評判を下げかねない。また嫌われ者になってしまっては、人生が楽しくないわ。あなたに取り戻してもらった人生だし、幸せに生きることが一番大事だと思うの」
「そうだな。ローゼリアには人生を楽しんでほしいと思っている」
「それに、私を陥れていたことが明るみに出れば、彼女は無事では済まないわ。学園にいられなくなるでしょうし、その後の社交界デビューもおそらく不可能になる。貴族女性にとっては致命的よ」
アンジェラは私が不幸になって表舞台から消えることを望んでいた。
それなら、私は幸せに生きてそれを彼女に見せつける。そして彼女には表舞台から消えてもらうわ。
「まあ妥当といえば妥当か。なんにしろ、君も戻ってきたことだし、これからはしっかりと協力するよ」
「ありがとう!」
学園でも味方してくれる人ができた。
しかも、私の命を救ってくれた人。
うれしくてうれしくて、満面の笑みを浮かべてしまった。
リアムがふいと横を向く。
「?」
「……そういえば。デリックとオリヴァーについてはわかったが、第二王子はどうするんだ」
なぜ復讐に関係のない殿下について
「とりあえず、しつこく付きまとったことは一度お詫びして、あとは近寄らないようにするわ。殿下はアンジェラに傾倒しているわけではないし、嫌われさえしなければそれでいいの。また評判を落としたくないし、関わらないのが一番安全だと思うわ」
「第二王子のことが好きだったんだろう。それでいいのか?」
視線を窓の外に向けたまま彼が言う。
「うん……一度死んだからか、あの卒業記念パーティーを経験したからなのかわからないけれど、なんだか以前とは気持ちが違う気がするの。殿下のことを考えるのを忘れていたくらいだし、追いかけまわしていたのが嘘のよう」
アンジェラにうまく乗せられていたとはいえ、たしかに殿下に憧れる気持ちはあったはずなのに。
パーティーでの出来事だって、オリヴァーが私を押さえつけるのをやめさせてくれたし、完全に犯人として扱ったわけでもない。まだ何もはっきりしていないと、中立的な立場で発言してくださった。
追いかけまわして嫌われていたであろうことを考えれば、その公正さは素晴らしいものだと思う。
ただ、彼を想う情熱が戻ってこない。
「……そうか」
ぽつりとそう言った彼が再び正面を向いて、口元に手を当てて何かを考え込むように少し黙る。
ややうつむいている彼の表情は、前髪と手に隠れてよく見えなかった。
「ああ、紅茶が冷めてしまったな。淹れなおさせよう」
「ごめんなさい、そろそろ帰らなきゃ。いつも学校が終わったらすぐに帰ってくる私がいつまでも帰ってこないと、お母様が心配するから」
「そっか。それもそうだな。じゃあ帰ろう。あ、君の母君には時々遅くなることがあるから心配しないでって言っておいてくれ。これから復讐のために動くだろうし、時々作戦会議もしよう」
「作戦会議……なんだか秘密基地みたいなわくわく感がある響きね」
「そうかもな」
リアムが声をあげて笑う。
彼の笑い声は心地いい。私を馬鹿にする意図なんて少しもないとわかっているから。
待たせていた馬車まで二人で歩いて、彼の手を借りて馬車に乗り込む。
アメイシス公爵邸まで送ると言ったけれど、体力をつけるために歩くようにしているのだと彼が断った。
「じゃあ、また明日学校で」
「ええ、また。それから……いろいろと本当にありがとう、リアム」
彼が笑みを浮かべる。
「いいよ」
その短い言葉に彼の優しさが表れているようで、なんだかうれしくなる。
馬車が動き出しても、私の胸はぽかぽかと温かいままだった。
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