第41話/違和感を辿って3
「忍! 梅! 帰るの早いわよ!?」
「早いって言ってもいつもさっさと帰ってるよ? というか珍しいね。瑠璃ちゃんの家こっちの方向じゃないのに」
その日の放課後。帰路についた忍と梅花の元に瑠璃が走ってやってきた。彼女の帰路は2人と正反対のため彼女が走ってきたことに梅花は驚いているようすだ。
「いや、昼に聞いてくるって言ってたでしょ? それで聞いてきたのよ。それに親には遅れるって言ってあるし。まぁいつも委員会とか部活とかで帰るの遅いから心配されることはないんだけどね」
「それで、海静に聞いた結果は聞けなかった。だろ?」
「ええ……よくわかったね……心読めなくなったって言ったの嘘?」
「嘘を言う理由がないだろ。普通に考えたら話なんて聞けないだろ?」
「まあよくよく考えればそのとおりだったわ。何か隠してるならそれを言う理由がないんだし、仮に言ったとして、その結果自分に何か起きるとかあればなおさら言えないだろうし。ただ話してたらまるで何かに怯えているみたいで、すぐに逃げるようにどっか行っちゃったのよね……」
足並みを揃えて歩く瑠璃が残念そうにしながら海静から聞き出すことはできなかったと語る。しかし話すにつれて海静が何かに怯えているような状態だったこと、そして話すのを拒むように逃げられたことを話すと、梅花が急に足を止めて。
「瑠璃ちゃん。もしかしてだけど
「そう言われてみれば周りを気にしてるような素振りもしてた。でもそうだとしたら希望さんはなんで理科のときに変に挙動不審気味になったのかも引っかかるのよね……」
「あの時は希望さんが片付けようとしてビーカーを落としちゃったから……怒られるのが嫌でああなっちゃったとか?」
「どちらにせよ埒が明かないなぁ……ねぇ忍、あんたさっさと共感覚とやらを取り戻してよ」
話していても海静がいじめを受けているという証拠がなく確信が持てない。そこでじとっと睨みつけるようにして彼の力に関して文句を言う。だがそれは無茶ぶりでしかなく無理なものは無理だと言わんばかりに首を横に振り、そもそも原因がわからないのだと伝える。
「はぁ……使えない」
「サラッと貶すのやめろ」
「ふん、本当のことでしょ」
あれだけ梅花に当たりが悪いことを言われたにもかかわらず、彼女の忍への評価は変わらずツンとした態度で鼻を鳴らす。
目が笑っていない梅花からの視線が突き刺さり慌てて話を戻す。
「それよりもいじめだと仮定するなら私たちにはどうすることもできないけど、放っておくと面倒になるから要注意ね……まぁ暫くは様子見になるってことで私は帰るね」
話はここまでにしようと、軽く別れを済ませるとひらひらと手を振って来た道を走っていった。
「本当に瑠璃ちゃんは素直じゃないんだから……本当ごめんね」
「もう慣れてるから大丈夫だ」
苦笑を浮かべる梅花にそう答えて再び2人は歩き始める。その瞬間だった。
「ねえねえ! さっきの3人で何を話してたの!?」
2人の間に割って入ってきたのは理科室で忍と一緒の班だった里寿。目を輝かせて忍たちが話していた内容に興味を沸かせている様子だ。いったいどこから現れたのか、どこから聞いていたのかは定かではないが、彼女の言葉からするにあまり話は聞いていなかったのだろう。
「里寿ちゃん!? いつからそこに!?」
「瑠璃さんがそれじゃあって走っていった時から。それでそれで? 何の話をしていたの?」
忍たちの前で腰を低くし背進する彼女は期待のこもった上目遣いで尋ねる。
周囲に興奮する彼女のブレーキ役である瑞樹はいないためこのまま何も話さなければ確実にずっとついてくる。仮に振り切ったとしても翌日、翌々日と事の詳細を聞きに来るのは目に見えていた。里寿がそういう人なのは理科室での会話でも身に染みており、忍たちは詳細を明らかにした。
「なぁぁぁぁぁるほどね……ねぇねぇ、
話を聞いて思い当たる節があったのか、彼女は目を据わらせて口元に手を添えると自慢の情報網を持って知った噂を口に出し始めた。
「
言葉を紡ぎながら体を動かして噂を伝えてくる里寿。その度に後ろ髪と右側頭部の長い髪が動きに合わせて揺れていた。なんとも落ち着きのない話し方で、聞いている方も落ち着かない。
だがそんな彼女が言う噂はどこから聞いたかは定かではないのに正確な情報でもある。となれば海静は雪落からいじめを受けているということになり、梅花が考えていたことが事実となった。
里寿と入れ違いで帰っていった瑠璃に今の話を聞かれていたら危うく怪我人が出ていたかも知れず、いなくてよかったと忍は心から安堵して息を吐いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます