第40話/違和感を辿って2

「それで、話を戻すけど。梅が大丈夫だったとして……海静さんの様子がおかしかったのは気になる」


「俺はそこまではわからなかったな」


「君は人と話すの嫌いみたいだし。私と梅しか話し相手がいない可哀そうな男だもの仕方ない。まして新学期初日にあんなこと言ってたらなおさらよ。まあそのせいで毎回変な噂が出回るのだけど」


「ぐうの音もでないが、中々な言い分だな」


「本当のことでしょ」


 梅花が弁当を食べ終わった頃、まだ休み時間が余っているためその場で先ほどの話の続きをしていた3人。


 瑠璃が梅花と同じ班だった海静のことを言うのだが、忍には伝わっておらずそこに付け込むように言葉のナイフで彼を刺す彼女。仲がいいのか悪いのかよくわからないやり取りを2人の間で聞いている梅花は、このままだと喧嘩になると感じて立ち上がると、両手で2人の口を押さえ。


「はいストーップ! 2人とも私を挟んで口喧嘩しないで! もう、2人ともせっかく仲良くなったんならいちいち喧嘩しないでよー」


 手を放して、今の2人の行動に頬を膨らませて軽い怒りを見せる。

 

「誰が忍と仲良くなったって」


「はい瑠璃ちゃんのそういうところよくないと思いまーす! 私も違和感とか感じなかったからあれだけど話し合うのなら喧嘩してたら結果が出せないでしょ。喧嘩するくらいの話し合いするなら仲良くなって実になる話し合いができるようにすべきだよ。まあそこも瑠璃ちゃんっぽいけどね」


 名前を呼びあう仲になっただけで仲良くなったとは思えていない瑠璃が仲良くなんてと言った刹那、2人に対して怒っていた梅花の視線が瑠璃へと向いて彼女の性格にダメ出しをする。


 実際話し合いは同じ議題を話し結果を導き出す、もしくはヒントを得る行為であり、喧嘩するものではない。喧嘩などする話し合いには結果も答えも何もかもが見いだせない無駄な時間になってしまう。そう考える彼女は瑠璃の性格を完全に否定はせず、しかし忍とちゃんと仲良くなるべきだと述べる。


 その必死な姿と、滅多に見ない彼女の怒りの圧に拒否権はないと悟ると、瑠璃は一言「……ごめんなさい」と頭を軽く下げて言った。


「わかればよろしい! それで、私も本当に2人が何を言ってるのか全くよくわからないんだけど、説明してくれるかな」

 

 これでよしと言わんばかりに腰に手を当てると、再び2人の間に座り話の詳細を尋ねた。


「――なるほどねぇ……こういう時忍くんが頼りだったんだけどねぇ……」


「頼りだった?」


「うん。って忍くん瑠璃に言ってないの?」


「……そういうお前もだろ」


「うぐ」


 腕を組み唸る梅花。彼女の言うとおり、心の声が聞こえるのならばそれで真相を明らかにさせることが可能だった。


 しかし今彼にはその能力がない。だからこそ悩んでは口に出してしまったのだ。


 しかし口に出したとはいえ、樹とは違いここにいるのは一応は信頼できる人。つまり怯える必要はない。それに梅花は忍の辛さを一番わかっており、そのうえでその話題を出したということは彼女からしても瑠璃は信用すべき友であり、裏切るなんてことはないと感じているのだろう。


「2人はいったい何の話をしてるの……?」


「ちょっとな……」


 不思議そうな顔を浮かべて横から眺めてくる瑠璃。そして忍の顔を見て何も言わずに頷く梅花。その行動は全部話してもいいという合図だ。


 すうっと静かに、そして大きく息を吸い込んだのち、忍は自分たちの秘密を全て打ち明けた。もちろんそれらが秘密ごとであり、瑠璃を信用しているからこそ話したのも、話したことで何が起きたのかも、全て彼女に話した。


「……えっと、なんて反応をしていいのかわからないのだけど……これだけは言える。秘密を打ち明けてくれてありがとう2人とも。なんか今までの疑問が全て繋がった気がする」


「な、なんとも思わないの? この嘘吐きとか……気持ち悪いとか……」


「梅〜さっき、信用してるからって言ったのにその心配? まあ人はそれぞれ秘密を抱えてるものだし、かく言う私だって秘密が……ともかくそういうことだから別に嫌いになったりはしないよ。寧ろ人の内部を知って貶してきた人をぶん殴りたいくらい」 


 全てを聞いた彼女はひどく驚いた様子を浮かべていたが、今まで忍と梅花の間に感じていた疑問という絡まった糸が解かれ今まで敵意を向けていたのが少し馬鹿らしく感じていた。だが彼らの秘密を知ってもなお彼女にとっての恋敵であるのは変わらない。更にはこれまでの関係を見直すということはなく、梅花のことをもっと知れた嬉しさと、忍の能力に嫉妬しただけだ。


 また理解あるからこそか、過去の2人の身に起きた仕打ちに許し難い感情を露わにして、拳を強く握っていた。


 そこはカッターじゃないのかと思う忍だったが、お互い信用できる仲だとしても、カッターを肌身離さず持ち歩き、脅し道具として使うこともあるのは知られたくないのだろう。


「まぁその、そういうことで色々隠していてすまなかった」


「まあそういうことなら仕方ないし……とはいえ、人の心が聞こえるねぇ……使い方によっては便利だけど頭痛くなりそう……それに確かにそれがあればさっきの違和感が何かよくわかっていたわけか……うーん、あれでもこれ結局振り出しよね?」


 改めて今まで誤魔化していたことや嘘をついていたことを頭を下げて謝罪した後、どこにもぶつけられない怒りを収めた彼女は何度も脱線した話題の路線を戻し頭を悩ませる。


「ならもういっそ直接聞いてみた方が早そう……よし、そうと決まれば聞いてくる」


 それで普通に聞けたら苦労はしない。勢いよく飛び出して行った瑠璃の言葉の余韻に浸りながら、忍と梅花はお互いにそんなことを思いながら苦笑いを浮かべるのだった。

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