第29話/同居バレ
「もう……いっちゃうの?」
――
「……いかせてくれ」
「だめ……いかせない」
――いかせたくないもん……。
「いや、今日から入居だし部屋の片付けするから行かせてくれよ!? ていうか変に艶やかに言うな! 空木さん!」
「えー! だってまだ忍くんとひとつ屋根の下になってから1週間も経ってないんだよ!?」
――ケチだなぁ!
梅花が居候を始めて4日目。忍は予定よりも早く引越し先に入居することになり、玄関に立つ忍を行かせまいと腕を抱きしめるように梅花に引き止められていた。
それも菊城家に居候中のため、苗字だと呼びにくいからと名前を心で呼びながらだ。
「決まったことだからな。それに今のうちに離れた方がいいんだよ」
「む。なんか私が嫌だから離れたいように聞こえる」
――この4日間で嫌われた!?
「はあ……お前本当にめんどくさいところあるよな……」
彼が入居を速めたのは彼女を嫌ったからではなく、学校でのことを心配したからだ。今は隠し通しているが、同棲なんてバレれば変な噂が跋扈し始める。それはなるべく避けるべきだと考え速めるに至ったのだ。特に瑠璃に知られると忍自身の命が危険にさらされてしまう。その前には離れるべきだと感じたのだ。
「居候とはいえ一緒に生活してるのがバレたら面倒になるだろ。だから今のうちに引っ越すべきなんだ。時に知られたらまずいやつもいるからな」
「それは……私のことかな?」
さっさと行こう。手をかけた扉を開けた途端、外からその声が聞こえる。
聞き覚えのある声に、薄らと感じ取れる殺気。恐る恐る外へと視線を向けると恐ろしく見える笑顔を向けた瑠璃がそこにいた。
一番会いたくもなかった人の顔を見て段々と顔色が悪くなっていく。
「あれ、瑠璃ちゃん!?」
「こんにちは梅。ちょっとこの男借りるね」
早口でそう言うと、彼女はグイッと忍の腕を引っ張り梅花から離れる。
ある程度距離ができたところで足を止めて彼女は振り返ると、冷静な表情の裏に般若が見えるほど忍を睨みつけた。
「詳しく説明してくれる? 今、私は猛烈に冷静さを欠こうとしてるんだけど」
「もはや冷静さを欠いているようにしか見えないが……はぁ……これを避けるために早く出たかったんだがな……そもそもなんで委員長は俺の家に来たんだ」
「別に。大層頭のいい君に勉強教えてもらいたかっただけこの間わからないとこあったし、テストの答え合わせ先にしたいし。ていうか、本題から逸れてる。このまま何も教えてくれないなら八つ裂きにするから」
「はいはい……話すから俺と話す度に毎回出してくるカッターはしまえ。それこそ見られたら面倒になるだろ。傍から見れば脅しみたいなもんなんだから」
カチカチとゆっくり刃を繰り出したカッターを手に握る彼女。冷静さを保っているように見せかけて、全然怒りが表に出ていた。
しまえと言われ命令すんなと言わんばかりに睨む瑠璃だったが、話が聞けるのならばと繰り出した刃を戻しポケットにしまう。
それを確認した後、彼はこう言った。
「訳あって空木さんは居候することになった。以上」
「答えになってないから斬る」
「これしか言えないのは空木さんのためだ。色々事情があるんだよ」
忍には話し、関わることになったが梅花は自身の親のことを誰にも言わないように内密にしている。それは梅花と仲のいい瑠璃にですら言えないもの。だからこそ全てを語ることはできず現状のみ説明した。
しかしそれでは理由にはならない。瑠璃が再び凶器を取り出してくるのだが、彼が本当に理由を言えないことを理解しそれを握ったまままた別の問題点を見つけて牙を剝く。
「……だとしても年頃の男女が同棲してるなんて流石に見過ごせないんだけど」
「だから引っ越すんだよ。ったく、委員長は早とちりしすぎだ。あと考えすぎだ」
「……そうだ。菊城と梅が同棲するなら、私も一緒に住めば……菊城の監視をしながら梅とずっと一緒に……」
「人の話を聞けよ。というか引っ越し先で同棲するなんて一言も言ってないからな? にしても……本当にあいつのことになると気持ち悪いなお前……」
忍の言葉を聞かず突然1人でにやけ始めた瑠璃。心を読まずとも彼女の欲が顔と言葉に出ており、流石の忍でも引いてしまう。
これ以上話していると何かある。そんな曖昧で嫌な予感がしてさっさと置いてきた荷物を取りに家へと戻る。
「あ、おかえり忍くん。ごはんにする? お風呂にする? そ・れ・と・も?」
――一度言ってみたかったんだぁ!
家に戻ると律儀に玄関前に立っていた梅花が照れつつ右手の人差し指を口元に持っていき、
普段見ない表情にドキッとする忍だが、彼女のダル絡みには慣れている。また今はただ荷物を取りに来ただけ。彼女から持っていく荷物へと目線を逸らし。
「……悪いな。第4の選択肢、
「むうノリ悪いなあ……ところで瑠璃ちゃんと何話してたの? 何か用あったんでしょ?」
――まさか浮気……。
「空木さんがどうして居候してるのか聞かれたんだよ。流石に年頃の男女が同居するのはって。まあ訳あってとしか言ってないから気にするな。それと勉強を教えてほしいみたいだったけど、引っ越しあるから断った。それだけだ」
肩下げのカバンを肩にかけると、梅花の心の声を無視し先程聞かれたことを話す。もちろん瑠璃にも梅花に知られたくない秘密を持っているため、冷静さを欠いてカッターを取り出したことや、後半梅花のことを考えてニヤついていたことは一切言わない。
「そっか……まあ私の親のこととか言わないでくれたのありがと。私がなるべく周りを巻き込まないようにしてたから気を使ってくれたんだよね」
――ていうかもし私の親のことが周知されたら周りから変な目で見られちゃうよね……。
「ああ。だから秘密にしておくべきで、ぼろが出る前には家を出なきゃなんだ。……まあ、どうしてもなら引越し先にでも遊びに来てもいいけどな」
「……うん!」
――素直じゃないなぁ!
「……うるせ」
家を出て一人暮らし。つまりはうるさい家族や、梅花とそこまで関わらなくなるということ。それはそれで寂しく感じたのか、照れ隠しに外を向いて遊びに来るくらいならと言い、彼女の心の声で逃げるように一言だけ言い捨てると肩にかけた荷物を持ち直して家を出た。
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