第28話/梅花を迎え入れるために3
「全くあのバカ親が何を言い出すと思えば……空木さん……その、真に受けなくていいからな……?」
母親がとんでもないことを言って去った直後、忍は自室のドアを開けて表に出てくると梅花に向けて話す。
「えひゃぁぁぁぁぁ!」
――ききききききくくくくくくくああああああああああ!?!?!?!?
忍の声が聞こえた方へと向く梅花は幽霊でも見たのかと思うほど身体が跳ね、心は大きく叫んでいた。
動揺しているからか顔は更に紅潮し目は激しく泳いでおり、心を読まずとも彼女の心境が伝わってくる。
「いや動揺しすぎだろ……いつもそっちからちょっかい出したり、距離感縮めようとしたりするくせに」
「えぁ……そ、それもそっか!?」
――それとこれとは訳が違うんだよ菊城くんのバカぁぁぁぁぁぁぁあ! というか驚かすなぁぁぁ!
「言ってることと思ってることがぐちゃぐちゃだな……はぁ。驚かしたのは悪かったが1回深呼吸して落ち着け」
いつも自分からしていることを言われるがまま思い出す梅花だが、自分からすることと言われてすることでは意味合いが違い、心の準備ができていない。
だからこそか本人じゃなくとも動揺しているのがわかるほど彼女の心臓は高く波打っていた。
直前にあの言葉を聞いたせいで余裕が崩れ、その瞬間に忍が突然現れたことに動揺した結果、忍の言葉に納得しているような言葉とは裏腹に、本心では全く違う言葉が飛んでいた。噓吐き症候群による弊害が現れているのだ。
自身でもその症状が出ていることを理解しており、恥ずかしさのあまり逃げたい気持ちで心が埋まる梅花。しかし他人の家に逃げ場など無く、心を落ち着かせるために彼の言う通り深呼吸を繰り返す。それも独特な呼吸方法で。
「ひっひっふぅ……はあ、本当に驚かせないでよね」
――とはいえ菊城くんのお母さん変なこと言ってくるんだもん。
心を落ち着かせることに成功した梅花は、酷く疲労感に襲われ息を吐き驚かせたことに対してじろりと彼を睨みつける。
「驚かせたのは本当に悪かったって……まあ変なこと言ってたのは前に嘘だけど付き合ってるって言ったせい……だろうなあ。一応言い間違いだとは言っておいたけど」
「き、菊城くんって意外と容赦ないね。付き合いたいって、好きだって気持ちは本当なのになあ。というか私の気持ち知ってるうえでこれだからなぁ。壁厚すぎて草生えるよ」
「……心の声が駄々洩れすぎてこっちが恥ずかしいからやめろ。ていうかそんなに好きだとか言うな、頼むから……」
「……あれ? あれれれ?」
――い、意外な反応が……。
心の声と実際の声が混じった言葉を言った直後、忍は今まで我慢していたものが破綻したかのように顔を赤く染めてそっぽを向く。
今まで照れることすらなく、その反応を見て目を丸くして再び困惑する梅花。心の声が聞こえているなら何度だって聞いたことのある言葉なはずであり、今までだってその反応をしてもおかしくはなかった。
しかしそれは初めて見る仕草で、確かに心を動かしたと実感できるものだった。
「え、えっともしかして……」
――この反応は少しは私のことを意識してる!? いゃったったったったったったった!? ってか菊城くんのお母さんの言ってること本当だったの!?
「……い、一応言っておくが、別にお前のことを好きになったつもりはないからな」
「はいはい。そういうことにしておきますよー! ふふーん!」
――そういえば菊城くんってツンデレだもんね!
「だからっ! ああもう……これだから一緒に居たくなかったんだがな」
少しではあるが確実に意識していると知り、忍の言葉など聞く耳持たず自信満々に腰に手を当てている。
幾度となく好意を向けていても何食わぬ顔だったり、軽く振られたり、心が揺らぐことがなかったため漸く意識してくれたことが嬉しくてしょうがないのだ。
その気持ちすら彼には見抜かれており、そっぽを向いた彼は恥ずかしさから頬を掻いている。そしていよいよ彼女の攻めに耐えられなくなった忍はバタンと扉を閉めて。
「お、俺はもう少し寝るから、綾のところか母さんのところにでも行っていてくれ……」
突然一人ぼっちになった梅花だが、嬉しさのあまり気にしていない様子だった。
それからなんとか綾と話をつけ部屋の一部を借り持ってきたものを片づけた。もっとも持ってきたのは綾にも迷惑がかからないよう生活をするうえで最低限の物だけだ。
その頃にはすっかり意気投合して綾が普段通りのテンションへと戻っていた。
忍曰く、初日でここまで打ち解けられたのは梅花が初めてだという。実際時間こそかかったが忍の心も動かしているあたり、それほど彼女のコミュ力は高いのだ。
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