第14話/勉強会の約束を

「そうだ菊城くん。夏休み入ったら菊城くん家に遊びに行ってもいい?」

 ――まぁその前に勉強頑張って、明後日の期末テスト合格しなきゃなんだけど……。


 瑠璃との一件があったその日の放課後。忍と瑠璃が梅花をめぐり喧嘩じみたことをしていたことは知らない梅花は、生理痛が収まったようで、先日とは打って変わりにこにことしながらいつものように忍と共に下校していた。

 

 また自分の勉強できなさなど棚に上げ、まだ数週間もあるのに夏休みの話を引っ張り出してきていた。


「は? 嫌に決まってんだろ。特に俺の母さんと綾……妹は面倒なんだ。前だってお前を介護するのに連れてきたら騒ぎ始めたくらいだからな」


 「私が気絶してる間にそんなことになってたの? え、すぐ帰らなければよかった」

 ――菊城くん結構ダウナー感あるのに家族は騒がしい感じなのかー。いいなあ。


「できれば面倒は避けたいから来ないで貰って」


「えーけちー」

 ――でも、遊びに行きたいんだよなー。夏休み暇だし。


「あのなあ……第一、お前他にも友達いるだろ。なんで俺ばっか構うんだ」

 

 彼が言う通り梅花はクラスメイトだけでなく、他学年、他クラスの人と話をしていることがある。それだけ彼女に惹かれるものがあり人気があるのだ。だからこそ彼女には友達が多く暇になる日などないはず。

 

「他にも友達……? あー、いや、瑠璃ちゃんはともかく他はただ話とか合わせてるだけだから」

 ――体質の関係で嘘が出ることはあるけど、今まで適当にごまかして話合わせてるだけだからなあ、友達とは言えないかな。瑠璃ちゃんは1年の時も同じクラスだったし。


「それ本人たちに言ったら面倒なことになるからな……はあまあ、どれだけ言っても一度言ったことは曲げないからなあ……俺の家に来たところで何もないが……まあそうだな期末で全教科70以上点数取れたら考えてやるよ」


「やたー」

 ――きちくー! 鬼ぃー!


 最近勉強を始めた彼女には期末テスト全教科70点以上というのはかなりつらい点数。元より彼女を家の中に招待するつもりがないのだから、彼からすればその無茶ぶりは妥当なのだ。


 当然、彼が本当に家に入れたくないことも、だからこそそこまですることを梅花は予測できていた。とはいえ実際に言われたことで改めて忍のことを鬼だと思うのだった。


「あ、一応言っておくが、この約束をした以上俺は教えないからな」


「ごふっ……こんなところに悪魔が……いたとは……」

 ――もはや鬼越えて悪魔だよ!? ぐぅ、でも……うぬぬ……あ! じゃあ勉強会とかどうだろ? いや、勉強会だとして! 菊忍くんの家に入ることは出来ない! そして教えてくれない! 困った……。


 なんと言われようと構わない忍。彼女の言葉と心の呟きを聞いて心の中で、早く諦めてくれと唱えていると。梅花が再び口をひらいた。


「そうだ菊城くん! べ――」

 ――瑠璃ちゃ――。

 

「断る」


「待って!? まだほとんど言ってないよ!?」

 ――断るの早すぎてびっくりした!!


 梅花が何かを企み始めたのは心の声を耳にしなくとも忍にはその企みがなにか考えが付いていた。


「何となく嫌な予感したから。どうせ勉強会するとかだろ」


「ギクッ、ナ、ナナナンノコトカナ!?」

 ――偶に心読んだみたいに鋭いのなんなのー!!


 読みは当たっていたようで、梅花はだらだらと汗を流してごまかそうと必死になっている。目も泳いでおり口調も固くそれが嘘であることは非常にわかりやすい。


 そしてこうやって見ると彼女の嘘吐き体質による嘘と、意図的に吐こうとしている嘘とで違いがある。今回は意図的に吐こうとした嘘だ。

 

「はぁ……何ヶ月お前のだる絡みに付き合ってると……」


「ほう……ならただの勉強会じゃないことも?」

 ――これでわかったらもはやキモいけど。


「そんなの知るわけないだろ。知ったところでだし」


「ふふふ……なら教えてあげよう……今週の土曜に私の家で勉強会を開催しようと思うの! メンバーは菊城くん、瑠璃ちゃんだよ! これなら問題ないでしょ? あ、ちなみに強制ね」

 ――菊城くんはあくまでも私に教えないだけであって、私は瑠璃ちゃんから。菊城くんは瑠璃ちゃんに教えることができる! つまりこの勉強会は菊城くんが言った言葉の抜け穴なのだよ、ふふふふふ。

 

「はぁお前日本語通じてないなさては……というかお前年頃の男を家に連れ込むとか平気なのか?」


「え? んー菊城くんはそんな事しないだろうし? ヘタレでしょ?」

 ――仮にそんな気が合ったとしても、菊城くんなら……って何考えてるの私!


 彼の前に立った梅花はにひっと笑って失礼なことを言う。しかしその直後なにを考えたのか彼女の顔が急に赤く染まり、忍から逃げるようにして目を逸らした。


 彼女が忍に対してどういう感情を抱いているのかは忍自身もなんとなく理解できている。だが、人を信じるということを嫌う彼にとってどの感情を向けられても答えることができず、また興味すらわかないのだ。とはいえ危機感くらいはある。そのため梅花の話に不安が募ったのだ。


「ま、まあ、その……る、瑠璃ちゃんいるし大丈夫だよ! 多分……?」

 ――だ、大丈夫だよね? 菊城くんにそんな勇気無いよね? いやそうなったら嬉しいところもあるけど、瑠璃ちゃんくるし……。

 

「急に自信を無くすな。はぁ……俺がヘタレでよかったな。てか失礼だろ普通に」


「あはは……ごめん」

 ――まあ菊城くんも男だし、ヘタレって言われるのは嫌か。

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