第14話/桜木瑠璃の本性

 休日明けの昼時間、珍しく教室で休んでいた忍は厄介事に巻き込まれていた。また梅花は他の友人と一緒におり彼の隣にはいない。


「ねぇ、前から思ってたんだけどきみ梅のなに?」


 自分の席に座って読書に励む忍の前に以前1度だけ見た事のある女子が腕を組み低い声で話しかけていた。


 彼女は梅花の友達であり、クラスメイトの桜木瑠璃さくらぎるり。成績優秀、運動神経抜群な文武両道の女子で生徒会、学級委員長と完璧の言葉が似合う人だ。


 だがこの世に完璧な人物など存在しない。まさに忍が現在進行形で体験している。


「先週生徒会会議の帰りにきみが梅を背負ってるのが見えたの。それにここ最近よく話してる姿見るし、ライムでも菊城くん菊城くんって……ほんと目障り。きみみたいな陰キャが梅と話す権利ないよ」


「へぇ」


「へぇってきみ人の話聞いてる!?」


 こういう人と関わるとろくな事がない。それを知っている忍は彼女の言葉など右から左へ受け流し、適当な返事を返す。


 それが逆に彼女に火をつけてしまい、声を荒げて机を叩く。


 話は周りに聞こえていない。だからこそいつも温厚で良い人な委員長が声を荒げたこと、そして机を叩いた事で教室はしんっと静まり視線が集まる。


「いつも温厚な委員長がこんなことするなんてな」


「誰のせいだと?」


「だからって自分の評価とか落とすのはどうなんだ?」


「だからなに? 確かに変わったとかそんな人だったんだとか思われるかもだけど、そんなの重要じゃないから!」


「……はぁ……めんど」


「面倒……? 何その態度!」

 ――こんなやつやっぱり近づけない方がいい。そもそも梅はなんでこんなやつに興味持ってるのさ。私には梅しかいないし、梅には私だけいれば十分なのに。


 いつも聞こえない、聞こえていないふりをしていた心の声。こういう面倒事のために人の心を聞くのは流石に違うと思っている忍だが、この場を切り抜ける方法は特になくならば彼女をと実行に移したのだ。


 と言っても暴いたところで、周りに言うつもりは無く、それで弱みを握ることは無い。ただいつも温厚だからこそ、誰かに言われているのではと思い確認するためだ。


「そこまで言うならまず場所を移そうか。これ以上話が続くと本当に君の信用が落ちるだろ」


「はぁ!? ってちょ!?」

 ――こいつ自分のことより、他人の心配とか馬鹿なの? ていうか行動に移すの早っ!


 休み時間はまだある。しかし時間は有限。これ以上他人のために信用、信頼を落とすのは見てられずさっさと人気ひとけのないいつもの場所、屋上前まで来る。


「まぁここまで来れば誰にも聞かれないだろ」


「なんというか……陰キャのくせに行動に移すの早くてびっくりした」

 ――この厚意はありがたいけど、こいつ自分の首を締めようとしてるのわかってるの?


「……で、だ。早速だがさっきの質問に対しての答えだけど。俺と空木さんは単なる友達だ」


「嘘だ!」

 ――単なる友達なら背負ったり頻繁に一緒に帰ったりしないでしょ!


「まぁそう言われると思ってはいたが、これは事実だ。求めてる答えじゃなくて悪かったな。だけどな、桜木さんがやってるこの行為は空木さんは望んでないんじゃないか? それに桜木さん。本当に委員長は空木さんのことを思ってやってるって言えるのか?」


「何知った口を――」

 ――急になんなの!?

 

「俺は! ……俺は空木さんのことを知っている。もちろん。だからこそ何となくわかるんだよ。でも再三言うけど、俺と空木さんとはじゃない。だから不快にさせたなら謝る。でも委員長。君がやっているのは傍から見ると空木さんの人脈、人付き合いを制限し束縛している。いわば君は彼女にとっての鎖だ。誰と関わるかなんてその人次第だと俺は思う。それを今回みたいに制限するのはおかしいと思うぞ」


 なんでこんなにヤケになっているのか。彼自身でもよくわかっていない。


 だが梅花と瑠璃の心の声を聞いたからこそ、瑠璃がやっている行為というのは『梅花のため』にはならない。そう思えるからこそ、瑠璃を止めなければと必死になっているのだ。


 しかし絶対に辞めるべきだと、間違いだとは彼は言わない。なぜなら間違いだと言い切る行為もまた、その人を否定することになり、場合によっては悪影響を及ぼす可能性があるからだ。


「……そ、そんなの理由になってないじゃない! 第一きみは梅のことを嫌ってるでしょう!?」

 ――新学期初日にあんなこと言ってたし!


「はぁ……空木さんにも言ったけど、苦手であって嫌いではない。意味こそ似てるが苦手は好きにも、得意にもなる。一方で嫌いはどれだけ頑張っても嫌いのままだ」


「――――ッ 梅の気持ちすら知らないクソ男が……!」

 ――悔しいけどもう何も言い返せない……! こいつの言うことも一理あるし……私は梅のためにやろうとしてたけど……ぐぬぬ!


 言い返す言葉がなくなり、ただの悪口を吐く瑠璃。どことなく瞳が潤んでいるが、彼は気にせずに話は終わったとばかりに散々言われたお返しにと煽りに入る。


「……言い返すことはもうないみたいだな。もうそろそろチャイムもなるしさっさと戻るぞ委員長?」


「ぐぬぬ……覚えてなさいよ……菊城……!」

 ――いつか必ず梅から突き放してやるんだから……!


 女の恨みは怖い。それを実感して背筋に汗が流れるが、表には出さず、さっさと教室へと戻った。

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