第13話/空木梅花はSNSでも嘘を吐く
「――そういうことか。はあ、まあ熱中症とかじゃなくてよかったな」
チャイムが鳴り、扉を少しだけ開けてずっと忍たちを見守っていた忍の母が玄関を開ける。
そこには忍たちの担任、吾妻が立っておりことの経緯を話すと、そのままリビングへと入る。そして目が覚めていた梅花からこっそりと事情を聴きだすと、ほっと安堵の息を吐いて見たことのない優しい笑みを浮かべて言った。
「とりあえず、今日は送ってやるから安静にしてろ。姉さ……親御さんにも伝えておくから」
「はーい……ということで、そのありがとうね菊城くん」
――今度は倒れて運ばれるんじゃなくて遊びに来たいなぁ。
何かを隠した吾妻の手を取り立ち上がる梅花。倒れる前と何も変わらない顔色であいさつを交わすと、吾妻と共に廊下で見ている忍の母と綾にもお礼を述べて外に止めてある吾妻の車へ乗り込む。
せめて見送りをと外までついてきた忍に、運転席に座る吾妻が助手席の窓を開けて。
「忍。ついでだから梅花の親にあいさつでもしておくか?」
「なんであいさつする必要が……?」
「はっはっは。冗談が通じなくて私は悲しいぞ。それじゃあ来週な」
「あっ! 先生待って!」
――忘れてた!
冗談が通じなかったことに目を細め悲しみながら車を発進しようとしたところで梅花がストップをかける。
アクセルを踏もうとしていた矢先のことのためか、驚いて思わず声を出してしまう吾妻を他所に梅花は自分が座っている後部座席の窓を開けてスマホを突き出す。
「ライムの連絡先! 交換しよう!」
――今まで連絡先交換してなかったし、明日と明後日学校休みだし!
にこっと笑って言う彼女にきょとんとする忍。その言葉を理解するのに少し遅れ、慌てて自分のスマホを取り出して言われるがまま連絡先を交換した。
まず人と関わらないからこそ、彼のライムには家族の連絡先と店やヨウチューバーなどの公式しかなく、他人と連絡先を交換したことに実感が湧いていない。
まして彼と反対な雰囲気かつ、煩いくらい構ってくる女子の連絡先なんて、なおさら交換することはないからこそただ連絡先を交換しただけで彼の胸が高鳴っていた。
だが、相手は梅花。いつもの行いや今までの事を思い出すと、この後言われそうなことを予測でき自然と胸の高鳴りは静まっていた。
「よし、これでこのあとも学校帰りも連絡できる……」
――ふっふっふっ……私のスタ爆の洗礼をいつ受けさせてやろうかねぇ……
その心の呟きに、連絡先消すぞと言いかけ何とかこらえる忍。それを悟ったのか「ほどほどにしろよ梅花」と吾妻が呟き、2人を乗せた車は走り去っていく。
「なんか嵐みたいな彼女だったわねぇ」
「だから彼女じゃねぇって……」
「でも忍が友達、まして女の子を連れてくるなんてまずないからねぇ……とはいえあの子良い友達じゃないの。大事にしなさいよ?」
「……別に」
「もう……さて、ご飯にしましょうか! 今日は赤飯よ!」
「赤飯からは逃れられないのな?」
「お母さんが食べたかっただけでーす!」
嵐のように騒がしい梅花が去り、いつの間にか忍の横に立っていた忍の母がいつにも増して笑っている。それはあれほど人を嫌いになった自分の息子が友達を連れてきたことに感動し嬉しさが溢れているからだ。
だが先程から赤飯赤飯と言っていたのは、祝い事のためと言うよりはただ自分が赤飯を食べたかったかららしく、なんだそれと言わんばかりに忍は笑うのだった。
その日の夜時刻は夜の11時。案の定と言っていいほど梅花からスタンプが連投されスマホから通知音がひっきりなしに鳴いていた。
流石にずっと鳴らされては寝ることもできず、彼の趣味であるゲームにも集中できない。
しばらく続いているからか諦めてでかいため息と共にスマホを手に取って梅花とのメッセージ欄を開く。するとなんとも言えないキャラの吹き出しに『今暇?』と書かれたスタンプがずらりと並んでいた。
――――――――――――――――――――
既読『うるさい。何時だと思ってるんだお前』
『既読ついた〜! ふっ……見たかこれが私の毎秒3個スタンプ連打だよ』
既読『だからなんだ。次やったらブロックするぞ』
『えっちょ! それはないってぇ! うわーん! 菊城くんがいじめてくる〜!』
既読『自業自得だろ。それでなにか用でもあったのか?』
『ある〜』
既読『じゃあさっさと要件を言え』
『実は……ありませぇぇぇん! どやぁ……』
既読『よし、とりあえず来週殴る』
『暴力反対!!』
『自業自得だろ』
――――――――――――――――――――――
時間も時間だからか、突然既読は付かなくなり、返信も返ってこなくなる。
予想はできていたが、まさかSNSでもうるさいとは思ってもいなかった忍。だが梅花がうるさいのにはもうすっかりと慣れてしまい、彼女の連絡もうるさい事にはなんとも思うことはなかった。
しかし突然既読や返信がなくなり静かになったことで、変な違和感を感じてしまう。
何かあった。とか、危険なことになどの心配事によるものでは無い。どちらかと言うといきなり静かになった感覚に違和感を覚えたのだ。
「……まぁ静かになったのはいいことだし、寝るか」
自身の体に巡る違和感の正体のことを全く知ろうとせず、彼はただゆっくりと襲ってくる睡魔に飲み込まれるのだった。
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