第11話/期末テストへ向けて復習を
「1人で抱えようとしないで困った時はちゃんと頼れよ。そのための関係なんだからな――とは、あの時確かに言ったけどさぁ……」
「だって難しいものは難しいんだもーん!」
――歴史など滅んでしまえ!
お互い協力関係になってから早くも1週間ほど経過したある日。1人で抱えようとしないで頼れと忍が言ったばかりに忍は図書室で梅花の勉強を見ることになっていた。
進級初日も勉強――という逃げるための言い訳だが――すると言っていたが、本当に頭が悪いなんて思っていなかった忍。突然勉強教えろくださいと言われた時にはさすがの忍もゴミを見るような目で梅花を睨みつけていたのだ。
無論1人で何とかしろと言わんばかりに突き放そうとしていた彼だったが、数週間後には期末テストがある。そのままにしておけば他の人に頼るかもしれないが、万が一にも頼ることができなかった場合確実に赤点、からの補習となる。
赤の他人ならばどうということは無いが、彼女とは既に知った仲。さすがに放っておくなどできそうにもなく。勉強の面倒も見ることになったのだ。
「言っておくけど俺が手伝うからには赤点は取らせないからな? 嫌々って言うくらいなら勉強量倍にするぞ」
「鬼ーーーー!」
――人の心ない! 鬼! 悪魔!
「鬼で結構。で、そもそもの話なんだけど、歴史以外にできないもしくは苦手な教科は?」
「れ、れれ、歴史だけだヨ……ハハハ」
――さ、流石にほぼ全てなんて言えないよぅ……。
今まで人を避けるように生きてきた彼は誰かに頼ることもないため、ある程度の勉強はしている。そのため彼に苦手の教科など存在せず、この際だからと彼女の苦手学科をまとめて面倒をみることにしたようだ。だが、彼が思っているよりも彼女の頭の悪さは頭を抱えるほど酷いものだった。
「はあ……別に教えなくてもいいんだぞ。それで補習になって夏休み潰れても俺は知らないからな」
「うぐぅ……た、確かに他の教科も苦手だよ……」
――うわーん! いつもより菊城くんが意地悪だよー!
意地悪しているわけじゃないんだけどな。とは言いたくても言えない忍。頭を抱えたくなるところをなんとか我慢しつつ復習するためにと綺麗に書いたノートを広げて、分かりやすいように教えていく。例えば歴史は偉人が何年に何をしたかで語呂合わせや、ちょっとした歌のようにしたり、数学は簡単な計算式を教えたりなど。持っている知識をフル活用してゆっくりと的確に教える。
「もう無理ぃ……」
――頭がパンクして頭痛が痛い……。
「……まあいい時間だし、この辺にしておこうか。でも、帰ってからもしっかり復習しろよ。今この時だけの勉強なんて付け焼刃みたいなものだからな」
頭の回転に限界を感じ机の上で伸びた彼女の心の呟きに笑いそうになる。心の声が聞こえることは隠しているため堪えつつも時計を見れば、全生徒下刻時間目前となっておりそそくさと広げたノートなどをしまい図書室から出ていく。
「待ってよー!」と梅花が叫んでいたが気にしない。どのみち追いつかれると知っているのだから。
下校路に入って数分。案の定梅花が追いつき、忍の手が引っ張られる。
忍が振り返えると、言葉を発することができないのではと思うほど息を荒げている梅花がおり、少し待つとやっとのことで言葉を発した。
「ま、待ってよ……菊城くん……」
――こっの……足早すぎるって……頭だけじゃなくて身体的にも疲れちゃうって……。
「なんで待つ必要があるんだ?」
「な、なんでって……一緒の下校道なんだから……一緒に帰ろうよぉ……」
――勉強詰めだったから……普通の話とかしてないし……。
「はぁ……」
「ひ、酷い……ため息……吐いたぁ……うっぷ」
――久々に……走ったから……もう無理……。
なんとか声を出していた梅花。よく見れば顔色が真っ青に染まっており、最後の忍に対する文句を発した刹那、生まれたての小鹿のように震えていた足が膝から折れ、体の重さに身を任せる形で倒れる。
流石に目の前にいた忍が支えて、地面に直撃することはなかったが、声をかけても反応はなくしかし早い呼吸からただ倒れたわけではないと悟る。慌てて額に手を置いてみると彼女から手が燃えるのではと思うほどの熱が伝わってきた。
直前に心で吐いていた言葉から、体を動かしたからとも考えられたが慣れない勉強詰めもあり、体調を崩したのだろう。彼女のそれは乳幼児によく見られる知恵熱と呼ばれるものに近いものだが、気絶するほど酷い状態となれば話は別だ。
とはいえこのまま病院に連れて行ったところで、彼女の家の連絡先すら知らないのだから迷惑にもなりかねない。今から学校に戻ったところで校門が閉じている可能性が高く、そうなると彼が唯一取れる行動は。
「……はあ、面倒なことは避けたいんだけどな……俺んちで休ませて、学校に連絡するか……」
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