第10話/お互いを支える協力を仰いで2

 梅花の秘密を実質一方的に知り、公平じゃないとわかっていても忍は心を読めることを話そうとはしなかった。ただ単純に話したくはないということではなく、彼が抱えているトラウマがありその思いを二度としたくないからと言うことを拒んだのだ。


 そのトラウマは彼の人生を変え、人を避けるようになった原因でもある。


 その昔、忍に秘密があることを知った同級生が、それについて問い詰めたのだ。その同級生は当時の忍にとって一番の友達とも言えた人物。だからこそ心が読めることを打ち明けたのだが、その後気味悪がられ秘密は噂として広がり虐めを受けるようになってしまったのだ。それから人のことを信用できなくなり、また人を避けるようになったのである。


 そして現在通っている高校は問題が起きた学校からかけ離れた場所にあり、自身のことを秘密にすることで虐めにもあわず友人などいない孤独の身で通うことができていたのだ。


 当然そのことも言うことなどできない。彼にとって真実を言うことほど残酷なものは無く、心の声が聞こえるからこそ、真実を伝えた後の反応が怖いのだ。


「ってことは、もっともっと菊城くんと仲良くなればその秘密を知ることができるってこと!?」

 ――そのついでってほどじゃないけど私のことをもっと知ってもらえればフェアになるってこと!?


「……もしも信用して、君のことを知ったとしても多分言わない……言えないんだ」


 忍は視線を下げて申し訳なさそうに言う。


 その様子から聞いてはいけない何かがあると知り、言葉に詰まる梅花と吾妻。忍にとってその反応は予想通り。沈黙ができたところで続けて言葉を発する。


「まあでも知った以上は知らないふりはできないから、やばそうってなったら助ける。これでいいだろ?」


「あー……うん。いいけど、その、なんかごめん」

 ――生活に支障ないってくらいだから気にするものでもないかなって思ったけど、もしかしてそういうあれじゃないのかな。


「いや、空木さんが謝ることじゃない。それと言えないのは俺の問題だから気にしないでくれ。だからって聞こうとしてきたらはったおすけど」


「暴力反対っ!!! ……まあ菊城くんがそれでいいなら。菊城くんの言えないことを無理に聞くものじゃないし。助けてくれるならありがたいし」

 ――私としては腑に落ちないけど、それで嫌われるのは嫌だから。

 

「さて、梅花、忍。大事な話が終わったところだし本題の反省文を書け。別に2人話をするためにここに連れてきたわけじゃないし、さぼった事実は消えないからな」


「「あ、忘れてた」」


 改めて協力関係を結ぶ2人だったが、その話に夢中になり吾妻の一声でこの後反省文を書いて提出しなければならないことを思い出した。すっかり頭から抜けていたからか、2人揃って素っ頓狂な声を出し、嫌々ながらもさぼったことについての反省を述べる文を書くのだった。





「いやあごめんね菊城くん。私のせいで色々と」

 ――今日謝ってばかりだけど菊城くんが飲み物さえ買ってきてくれれば……こんなことには……。


「……お前謝る気ないだろ……」

  

 2人がようやく解放されたころには既に日が落ち始め、下校路は夕焼け色に染まっていた。


 最初はさっさと書いて帰ろうとしていた忍だったが、担任から個人で話を受けたり、後から梅花が追いかけて現在に至る。聞けば、梅花も忍と同じ登下校道らしく、それを聞いてから登校しているときによく梅花の姿と心の声が聞こえていたことを思い出す忍。


 加えていつもは人からの距離を置いていたため、高校に通い始めてから一緒に登下校などしたことがない忍。この状況下になつかしさはもちろん、新鮮味や緊張など色んな感情を感じていた。


 だがその余韻に浸る間もなく、昼時のことを根に持つ梅花の心の声で全てが消え口から出たのはため息ひとつと彼女を責める言葉だった。


「い、いやあ!? あるよ失礼だなあ!? はっはっは!」

 ――ぐぬぅ……絶対顔に出てたからバレたやつだ……。


「わざとらしいし、そもそもがわかりやすいからそんなごまかしは通用しないって何度言えば……いや、言ったところでお前の体質で嘘が出るんだから意味ないか。改めて考えると大変だな」


「……まあ実際大変だけどね。慣れればこっちのもんよ!」

 ――普通に話したいのに、突然嘘吐いたり、嘘を吐くのを我慢すると発作が起きたり……慣れても罪悪感は残るから正直辛いけどね。


 体質について詳しくは知らない忍。何気なしに労い聞こえてきた彼女の心の声に、指導室から出る際に言われた担任からの言葉を思い出す。


 ――梅花のことよろしくな。か……確かにこいつの体質厄介そうだしそう言われるのも納得だな。


 なるべく聞こえないように息を吐いて立ち止まると、彼は決心をつけて。


「空木さん。1人で抱えようとしないで困った時はちゃんと頼れよ。そのための関係なんだからな」


「えへへ、ありがとう忍くん。じゃあ改めて……嘘吐き症候群で迷惑かけるかもだけど、今後ともよろしくお願い、します」

 ――うわー! 恥ずかしい! 

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