第6話/ケガのお詫びに
「その……昼間はごめん」
「ん……? あーいいよいいよ、無理やり取った私も悪いし」
――まぁ全ての発端は菊城くんだと思うけどねっ!? ただ怪我したのは自業自得だし、そんな気にしなくて良いけどな〜。
その日の放課後、直ぐに帰ろうとしていた梅花を止めて、傷をつけてしまったことを謝罪する忍。ちゃんと面を向かって話すことは彼にとってそうそうなく、罪悪感こそあるが相手の顔を見ることはできていない。
突然謝ってきた忍を見てきょとんする梅花は、何かあったっけと言わんばかりの間を作り、眉の下がった笑みを浮かべて受け流す。どうやら彼女の方が罪悪感に包まれており、謝られたことに困惑しているようだ。しかしその心内は全ての責任は自分だけではないと叫んでおり、ますます申し訳なく感じてしまう。
「でも……空木さん一応女子だしそういう傷って」
「いや別にこのくらいどうってことないよ~。唾つければ治るって」
――ていうか傷つけたこと気にするなんて菊城くん意外と優しい?
このくらいなんてことはないと手を開いたり閉じたりしてアピールする梅花。それでも自分の行動によって怪我を負わせていることは彼女の指にまかれた絆創膏が物語っており、忍は一歩も引く気はない。まして怪我を負わせた相手は女性。その怪我が傷跡として残ってしまわないかと心配もあるのだ。
「うーんでもそうだなぁ……ならこの後付き合ってよ。それでチャラってことで」
――まだ家には帰りたくないし……それにこの間助けてくれたしそのお礼もしたいし。わんちゃん菊城くんと仲良くなれるチャンスかもだし!
その様子に腕を組んだ梅花は彼を納得させるべく、お互いウィンウィンな関係になれる提案を出し、返事も聞かずに鞄を肩に下げて歩き始めた。返事を聞かなかったのは、彼の様子から断ることはしないという予想によるもので、それは見事に的中したのだった。
手を引かれて向かった先はゲームセンター。忍にとって一番
とはいえ鎮痛剤を飲めば大抵なんとかなる。だがまさかゲームセンターに来ることなど予想してなかったため薬は飲んでおらず、じんわりと響く頭痛に彼の顔色が悪化する。
しかし梅花と約束した以上、無下に断ることはできず唇を強く噛みながら頭痛を我慢し続ける。
「あれ? ……菊城くん、具合悪い? 顔色悪いけど……もしかして嫌だった?」
――さっきまでそんな感じしなかったけど……。こういう賑やかなところ苦手だったのかな……私行き先言わなかったからなぁ……。
隣を歩く忍の変化に気づいた梅花は、少し俯いて痛みに耐える忍を覗き込むように尋ねる。行き先を言わずに連れてきたのだから、様子がおかしいのは気になるのだ。
落ち込むような心の声に、浮かない顔を向けられては流石に嘘をつくことなどできず彼は顔色が悪くなっている原因を簡単に話した。
「……前に、言ったよな……俺は煩いのが苦手なんだ……煩さすぎると頭が痛くなるからな……」
「え!? そ、そういうことだったの!? てっきり私が煩いのかと……」
――というか頭痛いなら出た方がいいよね!?
「……まあお前も充分煩いが……それと頭は痛いけどそこまで辛いってほどじゃないし、空木さんに付き合う約束だから……」
「だからって無理されたらこっちが申し訳なくなるって! それにここ以外にも行きたい場所あるから!」
――もぉー! 菊城くん変なとこ真面目すぎ!
体調が悪いのが表に出るほど低いトーンでゆったりと間のある口ぶりに、焦りを感じた梅花は彼の手を取り速足で外へと連れ出した。
「――はいこれ、アイスクリーム」
――菊城くん、頭痛大丈夫かな。
「ありがとう……」
ゲームセンターから避難した2人は近くのカフェ付近の休憩ベンチへと足を運んでいた。そこは先ほど梅花が他にも行きたい場所があると言っていた場所だ。
外はまだ明るく通行人が行きかっているため煩いのは変わりないがゲームセンターから離れたことで、頭痛が和らぎ彼の顔色は次第に回復していた。
それでも項垂れている忍に彼女はカフェでテイクアウトしてきたソフトクリームを渡す。
「にしても菊城くんが、煩いのが苦手って言ってた理由わかったけど……私が煩いってことはそう言うことだよね?」
――うーん……でも仲良くなりたいのは本当だし、菊城くんのこともっと知りたいんだよなぁ……別に変な意味じゃなくて、隣の席なのと一方的だけど友達と思ってるし……いい方法ないかなぁ。
「……」
隣に座った彼女は忍の方を向いて眉を下げては今までしてきたことを後悔するように落ち込む。 そんな彼女のその言葉にどう返事をするべきなのか、自分はどうしたいのか悩む。確かに彼にとって彼女は煩い存在であり、関わりたくは無い。だがそう思うだけ。ここ数日話した限りでは煩いだけで
だからこそ絡むなと思う反面、仮に絡まれても気にしないと思う気持ちがあり悩んでいるのだ。
「まぁ無理に絡むのは申し訳ないから、その、明日からは――」
「俺と仲良くなりたいって言ってたよな。なら
アイスクリームを舐めながらその言葉を口に出した。煩いのが苦手なのは変わりないが、過去に似たような苦い経験があるからこそ、変に気を使われるとストレスを感じてしまうのだ。
そうとは知らない梅花は、彼の言葉を照れ隠しによるもので気を使わなくていいと解釈すると、途端に明るい表情を浮かべて安堵の息を吐いていた。
「じゃ、じゃあこれからも普通に話していいの!?」
――やったぁぁ!
そんなに喜ぶものかと呆れる忍。しかし心のどこかでは嫌ではなさそうに、大げさに喜ぶ彼女の姿に苦笑を浮かべるのだった。
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