第5話/ケガのお詫びに

「その……昼間はごめん」


「ん……?あーいいよいいよ、ムキになって無理やり取った私も悪いし」

 ――まぁ全ての発端は菊城くんだと思うけどねっ!? ただ怪我したのは自業自得だし、そんな気にしなくて良いけどな〜。


 その日の放課後、直ぐに帰ろうとしていた梅花を止めて、傷をつけてしまったことを再び謝る忍。ちゃんと面を向かって話すことは彼にとってそうそうなく、罪悪感こそあるが相手の顔を見ることはできていない。


 突然謝ってきた忍を見てきょとんする梅花は、何かあったっけと言わんばかりの間を作り、眉の下がった笑みを浮かべて受け流す。どうやら彼女の方が罪悪感に包まれており、彼から謝られたことに困惑しているようだ。


「でも……空木さん一応女子だしそういう傷って」


「いや別にこのくらいどうってことないよ?」

 ――ていうか傷つけたこと気にするなんて菊城くん意外と優しい?

 

 人付き合いこそ嫌う忍だが、自分の行動によって怪我を負わせているのだからどうしても気がかりなのだ。まして相手は女性。その怪我が傷跡として残ってしまわないかと心配もあるのだ。


「うーんでもそうだなぁ……ならこの後付き合ってよ。それでチャラってことで」

 ――まだ家には帰りたくないし……それにこの間助けてくれたしそのお礼も兼ねてレッツゴー!


 腕を組んだ梅花は彼を納得させるべくどうしようかと考え、思いついたことをそのまま口に出した。


 負い目を感じている彼に、彼女の話を拒否する頭はなく言われるがまま彼女について行く。




 手を引かれて向かった先はゲームセンター。忍にとって一番な場所だ。人の心の声が聞こえるだけではなく、わいわいがやがやと色んな音が混ざり合っているため脳への負担が大きい。負担が大きくなるほど普段は感じることのない頭痛に襲われるほどだ。そのため彼は生まれてこの方ゲームセンターの存在こそ知れど殆ど来たことがない。もちろん家族の付き合いで来ることもない。


 とはいえ鎮痛剤を飲めば大抵なんとかなる。だがまさかゲーセンに来るなど予想してなかったため薬は飲んでおらずじんわりと響く頭痛に彼の顔色が悪化する。


 しかし梅花と約束した以上、無下に断ることはできず唇を強めに噛みながら多彩な音による頭痛を我慢し続ける。

 

「あれ? ……菊城くん、具合悪い? 顔色悪いけど……もしかして嫌だった?」

 ――さっきまでそんな感じしなかったけど……。


 少し俯き痛みに耐える忍を覗き込むように梅花は尋ねる。


 心配そうな顔を向けられては、流石に嘘をつくことなどできず彼は顔色が悪くなっている原因を簡単に話した。

 

「……前に、言ったよな……俺はうるさいのが苦手なんだ……うるさすぎると頭が痛くなるからな……」


「え!? そ、そういうことだったの!? てっきり私がうるさいのかと……」

 ――というか頭痛いなら出た方がいいよね!?


「……まあお前も充分うるさいが……それと頭は痛いけどそこまで辛いってほどじゃないし、空木さんに付き合う約束だから……」


「だからって無理されたらこっちが申し訳なくなるって! それにここ以外にも行きたい場所あるから!」

 ――もぉー! 菊城くん変なとこ真面目すぎ!


 気分悪そうに答える彼に焦りを感じ、彼の手を取っては急いで外へと連れていく。


 通行人がおり、うるさいのは変わりないが1番うるさなゲーセンから離れたことで頭痛が和らぎ顔色が次第に回復していった。


「――はいこれ、アイスクリーム」

 ――菊城くん、頭痛大丈夫かな。

 

「ありがとう……」


 ゲームセンターから避難した2人は近くのカフェの付近の休憩ベンチへと足を運んでいた。そこは先ほど梅花が他にも行きたい場所があると言っていたところだが、彼女がテイクアウトで持ってきたソフトクリームは隣の店のものだ。


「にしても菊城くんが、うるさいのが苦手って言ってた理由わかったけど……私がうるさいってことはそう言うことだよね?」

 ――うーん……でも仲良くなりたいのは本当だし、菊城くんのこともっと知りたいんだよなぁ……別に変な意味じゃなくて、隣の席なのと一方的だけど友達と思ってるし……いい方法ないかなぁ。


「……」


 今までしてきたことを後悔するように落ち込む彼女の言葉に対してどう返事をするべきなのか、自分はどうしたいのか悩む。確かに彼にとって彼女はうるさい存在であり、関わりたくは無いのだ。だがそう思うだけ。ここ数日話した限りでは


 だからこそ絡むなと思う反面、仮に絡まれても気にしないと思う気持ちがあり悩んでいるのだ。


「まぁ無理に絡むのは申し訳ないか――」


「俺と仲良くなりたいって言ってたよな。ならいい。――変に気を使われる方が嫌だから」


 彼がアイスクリームを食べながらそっぽを向いてそう言い放ち、それを耳に通した梅花は途端に明るい表情を浮かべて安堵の息を吐いていた。


「じゃ、じゃあこれからも普通に話していいの!?」

 ――やったぁぁ!


 そんなに喜ぶものかと彼女の喜ぶ姿に息を吐く忍。しかし心のどこかでは嫌ではなさそうに、呆れた表情を浮かべるのだった。

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