第22話 殺害後アンドロイドが逃走中

私はその言葉にホッとした。

“まだまだです”と弟子に言われるとサディスティックな心が湧いて余計に厳しく指導してしまうのが常だった。

そのスイッチを押したのが小朱であり押さなかったのが小甘である。

二人は対象的だ。

二人がお互い良い所を吸収しながら育って行ってくれたらいいと思ったりする。

しかしそれは無いものねだりというものだ。

私の鬼のような指導で辞めていった小朱はもう帰って来ない。

二人が道場で一緒に稽古をする事はまずないだろう。

「そうかい、限界なら休め」

私は小甘にそう言ってヤカンに沸かしたお茶を差し出した。

「老師、ありがとうございます。この武館は今は私一人だけですが、そのうちたくさん門下生が集まって来ますよ」

「どうしてそう思うんじゃ?」

「勘です」

「ハッハッハ、根拠はないのか。それもまた真なりじゃ。武術家は勘が大事だからな。敵の攻撃を勘で察知できてこそ勝てるからな」

と言うと小甘は、はにかんだ。


「さてもうひと頑張りじゃ」

「まだやるんですか稽古」

「馬鹿もん!まだやるとはなんだ」

「もう足がガクガクです」

「口ごたえするな。お前の兄弟子、小朱は弱音をはかんかったぞ」

「会ったこともない兄弟子の名前を出されても」

「この大馬鹿もん!つべこべ言わずに套路の稽古じゃ」

と私は小甘の耳を引っ張り稽古場の中央に引っ張り出した。

「いててて、耳はやめてください老師。わかりました。やりゃあいいんでしょ」

「わかればよろしい。それでは酒甕を抱える酒仙、権鐘離の動きをやってみい」

「はい、こうですか?」

「もう少し酒甕を大きく抱えるように胸の前でその甕を回すんじゃ。そうだその大きさを忘れるな。次は肘鉄砲が得意な女性の酒仙何仙姑の動き」

「はい、こうですか?」

「もっと、しなを作って女性らしく動け」

「こうですか?」

「なんじゃそりゃ!それではオカマじゃ」

「こりゃ面白い!私はオカマよ、ホホホ」

小甘のひょうきんさに私は思わず笑ってしまった。


「今日はこれで稽古を終わろう。わしも少し疲れた」

「ラッキー!もうヘトヘトでお腹ペコペコなんです」

「こら、師匠に向かってお腹ペコペコは失礼じゃぞ」

「すみません」

と頭をかく小甘。

しかしそんな世間知らずの態度が可愛くもある。

道場のそうじを終えた小甘は応接間に入ってきた。

「まあ、かけなさい。一緒にテレビでも観よう」

と私は促した。

購買意欲を煽るコマーシャルの後で緊急ニュースが入った。

「陸軍の人工知能搭載戦闘型アンドロイドが基地を脱走しました。民間の住宅に押入り家財を破壊し住人を殺害後、逃走中です」

その情報に私と小甘は目を見合わせた。

「こうなると思っていましたよ」

「言わんこっちゃない。我々が止めた時に諦めればよかったんじゃ」

「諦めは肝心ですね、老師」

二人共、当時にため息を吐く。

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