第21話 小甘は片腕ドラゴン好青年

「昔『片腕ドラゴン』と言う映画があったのう」

「ハイ、王羽が主演の映画ですよね。私はリアルタイムではないんですが何度も配信で観ました」

「わしは映画館で観たぞ。片腕でバッタバッタと敵を蹴散らす勇姿はしびれたのう」

「はい、片腕で構える姿にゾクゾクしました。仰向けに倒れた後、膝も曲げずに棒状にビューンって起き上がってくるところは笑いましたけど」

「ハッハッハそうじゃなあ。あれはないじゃろ、わしも笑たわ」

稽古の休憩時間にこうして弟子の甘王粛と他愛のない話をするひと時が楽しい。

今は片腕となった甘二等兵は私の武館に入門した。

小朱が去った後にまた若手の弟子ができた。

「辛かったじゃろうが片腕でも武術はできるからの。精一杯頑張れ」

ふと現実の話に戻った。

「はい、わかりました。私は片腕ドラゴンです」

小甘は明るい青年だ。

片腕である事がかえってステイタスのようだ。

「それにしても老師、外出の度に公安が付いて来るのはうっとおしいですね」


「仕方がないわい。陸軍秘密兵器アンドロイドに腕をもがれたと世間に言いふらされたら国家権力は困るからの。国家機密を握っているわしらの行動を監視せねばならんのじゃ。この道場に盗聴器が付いていないだけでもありがたい。いや…ひょっとしたら着いとるかも知れんぞ」

「まるでかごの中の鳥ですね、老師」

「わしらを生かして帰しただけでも極悪非道な奴らの仕打ちとしては軽い方じゃ。なんで殺されんのかが不思議でたまらん」

「まったく老師のおっしゃる通りです」

「平和な世の中は軍隊がある限り訪れんわい。ままならんもんじゃ、やれやれ。ぼちぼち稽古再開するぞ、小甘」

「はい、わかりました」

「わしが突いて行くからすべてよけるんじゃ。反撃は禁止じゃ」

反撃禁止など理不尽な稽古だが動体視力を養うにはこれが一番なのである。

直接後ろに下がらず回りながら私の攻撃をよける小甘だが何発かは当たる。

「老師、もう限界です」

と小甘は降参した。

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