第20話 腕ちぎる戦闘能力こそ正義

甘二等兵の腕は脱臼した。

痛みを紛らわそうとして体をくねらせたくてもアンドロイドが腕を固めているので地団駄を踏むしかない。

いっこうに手を緩めようとしないアンドロイドと技を解く命令を下さない館長。

私は館長に駆け寄り

「やめさせるようにアンドロイドに言うんじゃ」

と胸ぐらを掴んだ。

「私と話してていいんですか、老師?もうすぐ甘二等兵の腕は根っこからちぎれますよ」

「だからやめさせろとその腕時計に言うんじゃ!」

「これは腕時計ではなくコンピューターウオッチです」

「屁理屈を言うとる場合か!」

と言う私の怒鳴り声をかき消すように、この世のものとは思えない悲鳴が私の耳をつんざいた。

甘二等兵の腕がちぎれ床に転がっている。

ついにやりおった…とため息にも似た独り言を私はつぶやいた。

私は甘二等兵に駆け寄り大丈夫かと声をかける。

「ウォオォオ〜!」

と大声で叫び腕がちぎれた肩関節の付け根を押さえ甘二等兵はのたうち回った。


「救急車を呼ぶんじゃ!」

私は叫んだ。

道場内は騒然としているが一人だけ落ち着き払った人間がいる。

張館長が私のそばにやってきた。

「いかがですかなアンドロイドの威力は?」

「こんな緊急時によくそんな事を言えるもんじゃ、あんたは鬼か」

「鬼軍曹とはよく言ったものです。鬼と言われて光栄ですよ」

「救急車は何分で着く?」

「さぁ、もうすぐじゃないでしょうか」

「こんな事をしてあんたはクビにならんのか」

「アンドロイドの破壊力を上げるようにと上層部に言われておりますので逆に褒められると思いますがね」

「間違っとる、何もかも。狂っとるじゃよこの陸軍は」

「狂っているのは老師と甘二等兵の方です。陸軍は無敵を誇らなければならないのです。無敵のアンドロイドの開発を邪魔する人間こそ狂っています。狂った人間には罰を与えます。腕をもいでちぎる事ができる戦闘能力こそが正義です。それを否定する貴方達に実験台と言う罰を与えました」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る