第9話 小朱は 上達すると 確信す
「最初に言っておかねばならん。わしは弟子を育てる事が苦手じゃぞ」
「かまいません。老師の数々の武功に心酔しています」
「それはわしがまだ老師の元で修行していた頃の功績じゃ。こうして二代目館長になってからは人徳がなくこのようなさびれた道場にしてしまった」
「先生の素晴らしさをわかる者がいなかっただけだと私は思います」
「君はわかると言うのかね?入門して三ヶ月以上続いた者がいないなんて指導者失格とは思わんのか?」
「それは今までの弟子の忍耐力が足りなかっただけです」
「確かに昔に比べ忍耐力のある者は減っていると思う。私は昔ながらの厳しい指導しかできんがそれに耐えられるか?」
「武術が厳しいのは当たり前です。時代がマイルドになったからと言って修行までゆるゆるでは武術は、すたってしまいます」
「良く言った。わしも少し弱気になっておったわい。もう一度聞く、わしの厳しい指導に耐えられるか?」
「はい」
「よし。これからわしは君を小朱と呼ぶ」
「はい」
今度は私も白酒を注ぎ師弟の契りを交わす乾杯をした。
私が今までしてきた修行をそのまま小朱にやらせる事にした。
小朱が一人前の武人になる事に賭けた。
若い頃から武術の稽古に心血を注いできたが弟子が育たない。
師匠からは“お前は器用だが後輩に教えるのが下手だ”とも言われ続けてきた。
教えるのが下手でも教えなければもっと下手になる。
小朱と共に精進していこうと心に決めた。
「馬歩から始めるぞ」
と小朱に螳螂拳の立ち方を伝授する。
足を左右平行にして腿の高さが床とほぼ平行になるぐらいまで腰を落としていく。
「馬にまたがっている様に内腿を締めるんじゃ」
小朱は大汗をかき腿を震わせ踏ん張っている。
「少し休憩じゃ。そこに熱いお茶が煎れてある。ゆっくり飲みなさい」
「ありがとうございます。ところで李老師、この道場の弟子は私だけですか?」
「小朱が3年ぶりの一番弟子じゃ。寂しいか?」
「いえ…別に」
小朱はもっとたくさんの仲間が欲しかったのかも知れない。
「この腰を落とした姿勢で長い時間立っていられる事が一番実戦的なんじゃよ」
「突きや蹴りを出さなくてもですか?」
「ああそうじゃ。敵よりも腰が低い姿勢ができると言う事は敵の足をすくえるし、敵の死角に入り下から突きを入れる事もできるじゃろ?」
「なるほど、日頃から鍛錬していないとこの姿勢は無理ですよね」
「そうじゃ、理屈が分かったら実践あるのみ。馬歩の稽古を再開するぞ」
「はい」
と小朱は気持ちの良い返事をする。
彼なら続くかもしれない。
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