第4話 老人は 料理の鉄人 腹が鳴る

飛行機が当たりそうな看板の立ち並ぶ町並みを老人について歩いていく。

なぜかこの老人と歩いていると心が落ち着いてくる。

毎日、殺伐とした暮しを送っている自分が馬鹿らしく思えてきた。

老人はただただ先を歩いていく。

15分ぐらい歩いただろうか、カマキリが酒甕を持っている看板が目に入った。

ここがわしの住まいじゃと老人は言う。

住まいは地下にあるらしく階段を降りていく。

私も否応なしに降りる。

降りきったところの突き当りにパーテーションで区切っただけの応接室がある。

「こちらへ座りなさい」

「…」

「聞こえんのか?君は」

「聞こえるさ」

「聞こえるなら座りなさい」

「座りゃいいんだろ」

「可愛くない返事ばかりをするのう」

「老人に可愛いと言われてもなんの得にもならんさ」

「まぁよかろう。ちょっと待っていなさい」

と老人は応接室から出ていった。

座ってから気づいた。

ここは武術の武館であるようだ。

たくさんの武術書で本棚が埋めつくされていた。


香ばしさと香辛料が混ざった匂いが私の鼻をくすぐる。

グーと腹がなる。

どうやら老人は料理を作っているようだ。

炒め物をする音が聞こえる。

あの歳で重い中華鍋を振っているのかと信じがたい光景を想像した。

厨房を覗きたい気持ちをグッとこらえた。

しばらくして老人は汗を拭いながら応接室に入って来た。

「武館に食堂はない。テーブルを運ぶので手伝ってくれ」

今日初めて会った人間に食事なんか食わせてもらう筋合いはないと思ったが私の腹の虫が食べろと言った。

私はテーブルを無言で運んだ。

「なんじゃ意外と素直なんじゃの」

「意外は一言多い」

と私はぶっきらぼうに答えた。

青椒肉絲、麻婆豆腐、水餃子、回鍋肉、所狭しと中華料理がテーブルに並んて行く。

こんなにうまそうな料理は今まで見たこともない。

私は何を言っていいか、何をしたらいいか全然わからなかった。

そんなさまを見た老人は

「腹へっとるじゃろ、思う存分食え」

と言った。

私は

「ありがとう」

と小さな声で言って箸を取った。

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