第3話 老いぼれに 命救われ バツ悪い
ここは香港一の魔窟と呼ばれる九龍、これぐらいの乱闘は日常茶飯事だ。
貧富の差はどれだけ時が流れても無くなりはしない。
経済が悪化すると犯罪や暴力沙汰が起こるのは避けられない。
カモになるか、カモを狩るか二つにひとつ。
形勢逆転したカモは私の顎に両手を引っ掛け私をエビ反りにさせた。
これ以上反れないのではないかと思うほど私の背中はカーブを描く。
背骨がきしむ音が聞こえる。
ここまで屈辱を味わったのは初めてだ。
意識が遠のいていく。
死ぬ間際に走馬灯のように思い出がよみがえると言われるがその通りだ。
小さい頃、母が私の手を引いて駄菓子屋に連れて行ってくれた光景が瞼の裏に映し出される。
このまま私は死んでいくのだろうと諦めた。
そう思った時、私の顎を持つ手が緩んだ。
私は地面に顔面をしたたかに打ちつけた。
飛び上がるほど痛いが飛び上がるほどの体力が残っていない。
ただ顔を抑えてじっとしている私。
やっとの思いで上半身を起こして振り返ると今度はカモかエビ反らしをくらっている。
私は呆然とその光景を眺めているだけだった。
「まいったか?」
と技をかけている老人はカモに聞く。
「まいったと言えば手を離してやってもいいぞ」
「老いぼれにやられてたまるか」
「強情な奴だ。早くまいったと言った方が身のためだぞ」
背骨のきしむ音が本当に聞こえてきた。
カモの顔面は蒼白となり白目をむき始めた。
そして「ま、い、り、ま、し、た」と力なく言って気絶した。
「ふん、口ほどにもない奴じゃ。若いの、危なかったの」
「てめえに助けられなくたって一発逆転してたさ」
「口だけは達者じゃの。まぁ金もなさそうじゃし、腹も減っとるじゃろ、ついて来なさい」
一匹狼が他人の世話になるのは癪にさわるが”腹も減っとるじゃろ“の一言で欲望に負けて私は老人の従者となった。
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