第2話

  西暦20○○年 12月25日 クリスマス

 

 片瀬悠莉は夜遅く会社からの帰り道をたどって家に帰っている途中だった。


「はやく家に帰ってゲームしたい」


 自然と漏れでた言葉は小学4年生からの趣味であるゲームのことだった。

 なぜゲームが趣味になったかというと、友達が極めて少ないからである。

 理由としてはすぐそばにいる「こいつ」のせいだった。


 私は小さい頃から見えているこの「モヤ」は、人の形をとっているが全体がモヤにかかっていてしっかりとした姿形は見えない。

 そして何よりもこの「モヤ」が見えているのは私だけだったのだ。

 だから他の人に「これが見えないの?」と聞いても「気持ち悪い」や「なにいってんの」としか帰ってこず、言葉のキャッチボールができず友達もいないまま過ごしてたら、いつの間にかいつも一人になっていた。

 いくら私には見えたとしても他の人に見えないのならば仕方がない。

 中学に上がったらなにか変わるかなと思ったが何も変わらなかった。むしろいじめられてた。

 いつも一人でいる私を「協調性のないやつ」と見なされていじめられていた。

 だから私はゲームの世界にのめり込んだ。


 社会人になってからもそれは変わらなかった。勤めている会社は俗に言うブラックなところで、週5で働き徹夜で作業は当たり前。最高記録は3週間自宅に帰らずその二日後には出勤。

 なぜ生きていけたかって、それはゲームがあったからだ。他にも小説などたくさんあるが、それでも趣味は生きる理由になる。


 そして現在ブラックな会社はやっと長期休暇に入る。これからはゲームし放題。はやく家に帰ってゲームをしたかった。

 しかし運命は残酷だ。


「終電逃した」


 そう、終電を逃したのだ。ここからなら、徒歩で40分はかかってしまう。


「終わった」


 仕方がないので歩いて帰ることにした。


 歩き始めて30分、長いようで短かったような気がした。

 もうすぐ家というところで突然「モヤ」が反応した。「モヤ」も自宅に帰れてうれしいのかなと思った。

 この歩道橋を渡ってすぐそばのマンションの5階に私の部屋がある。


 歩道橋に足を踏み入れると、空から雪が降ってきた。ホワイトクリスマスというやつだ。


「綺麗…」


 少し、歩道橋の柵に掴まって見ていると


トン


「えっ」


 後ろから押された。そのとき思いもよらずに声が無意識に出てしまった。

 

 落ちているのだ。何者かに押されて。


 私は必死に腕を伸ばしたがすべて空に切る。唯一、「モヤ」が必死に触れもしない腕を伸ばしていたが私は落ちていく。


 (あぁ、こんな人生たったの21年で終わるのか。)


 (もっとゲームしたかった。)


 私はこの21年間のことが頭に一瞬で浮かんできた。


(これが走馬灯か)

 

 そして私に強い衝撃が背中から突き抜けていく。目の前には「モヤ」がいる。


「だ………じ……ぶ…」


 薄れゆく意識のなか、私は人生最大に驚いた。いましゃべっているのは私ではない。そう「モヤ」が初めてしゃべったのだ。


(結局こいつは何だったんだ)


 そうこうまとまらない意識で考えていると、まばゆい光が私に迫ってきた。


 そこで私の意識は途切れた。


 そこで私の人生は終わったのだ。



 片瀬悠莉 21歳 

 歩道橋から落ち、車に跳ねられて「死亡」

















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