第23話 予知が失敗する理由3

「入るわよ、リリッシェ」


 聞き慣れた、優しい声がする。


「あなたが心配で。お忍びで来ちゃいました」


 マーナレットは冗談めかして、わらう。

 彼女の気配は動かない。入口でリリッシェを見守っているようだ。


「なにかあったの?」

 布団をかぶっているリリッシェの背を撫でる。


「私たちに最高の吉報をくれたあなたがいない聖女殿なんて、聖女殿じゃないわ。ライファンも心配してたわよ」


 ライファン……。


 リリッシェは布団を跳ねのけた。


「お妃さまっ」


 泣きながら、床にひれ伏した。


「リリッシェ?!」


 王妃の声に緊張が走る。


「あの、わたし……」

 怖くて、息かつまる。


「あの予知は……っ」


「え?」


「あの予知は間違いだったかもしれません」


「どうしたの? だいじょうぶ?」


「ごめんなさいっ。わたし、みんなの期待を裏切りました」

 リリッシェは絨毯を握りしめた。


「何事なの? リリッシェ。そんな大きな声を上げて」


 父親と母親がリリッシェの部屋を覗く。


「どうしたの? 詳しく話して」

 王妃はリリッシェを抱き起こそうとする。


「ごめんなさい、ごめんなさい」


 リリッシェは何度も繰り返した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る