第8話 雪の王子の困りごと5

「それ、いいだろ? 山あいの村のぬいぐるみ職人から取り寄せたんだ。クッションじゃなくて、それを抱っこするといい」


 ぬいぐるみはライファンの部屋には似合わないかわいさだ。


 きっと来客のために取り寄せたのだ。


 リリッシェはぬいぐるみを抱っこして、ソファにすわる。ぬいぐるみはふかふかで暖かい。


 心まで暖かくなった。


 ライファンの部屋でくつろぐこの時間は、一日のうちで一番好きかもしれない。

 ライファンが編み直してくれた髪もなんだか暖かった。


 一瞬、胸がきゅんとした。子供のころの感情を思い出した。


 昔、ライファンが好きだった。身分違いだから、とっくに消してしまった想いだが、今でもまぶしく蘇ることがある。


 なつかしくてリリッシェは微笑んだ。

 今はこうやって、ライファンの親友の座を得ている。

 

 好きに部屋に出入りし、他愛のない時間を過ごす。色にするなら青色の、きらきらな時間だ。


「ライファンて優しいよね。昔から変わらない。あのね、ライファンって女の子に人気あるんだよ。公爵令嬢も、ライファンに申し込まれたら、きっと断らないよ」


「リリッシェは変わったよな。子どものころは、俺といるとよくわらった。なにをすれば、あのころのリリッシェにもどるんだ?」


「なあに? いきなり」


 ライファンは急にリリッシェに背を向ける。


「いや、別にいいよ」


 気持ちを切り替えるように微笑み、また本に視線を落とす。


「気になるよー、ねえ、ライファン」


 訊いても、ライファンは答えなかった。


「ねえねえ、ライファン」

 やはり答えない。


 ……ライファンが本気で怒った。


 リリッシェは青ざめる。


「ごめんね、ライファン」


 ルルー犬のぬいぐるみをライファンのとなりにすわらせる。


 前足でライファンの顔を撫でた。もふもふが彼の頬を滑る。

 ライファンはなにも感じていないように無表情だ。


 これはだめだと、リリッシェはそっと部屋を出た。

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