第4話 雪の王子の困りごと1

「いい加減な予知を広めるのは、やめてくれないかな? リリッシェローズ聖女」


 ライファン王子の冷たい言葉に、リリッシェはがっかりしてうなだれた。

 やっぱり、彼だけは予知を喜んでくれない。


 半刻くらい前、城に着いたリリッシェは、まっすぐ王子の部屋に向かった。


 王子とは幼馴染みだ。宮廷聖女でもあるから、リリッシェは自由に城の中を歩くことができる。


 妖精に愛され、たくさんの奇跡が起こる国には、敵は少ない。だから厳しい規制もない。


 ライファンは机に向かっていた。


 手元の本から目を離さす伏せ目がちでいる。長いまつ毛がきれいだ。


「予知以来、俺の生活は一変したよ。舞踏会やらなんやらの招待状が山のように届くわ、婚約関連の儀式の打ち合わせに呼び出されるわ」


 リリッシェは勝手にソファにすわり、クッションを抱えた。


「いい加減じゃないよ。ちゃんと未来の間で感じた予知なの。雪が降った清い夜のことだよ?」


 ライファンは眉間にしわを寄せ、長い髪を掻き上げる。白い肌に細い指。

 彼は粉雪のように繊細な美しさを持つ青年だ。

 王都では雪の王子と呼ばれている。


「俺が婚約? この月のうちに? そんなわけないだろ」


「だから、急に恋に落ちるんだよー。……たぶん」


 今日も彼は忙しそうだ。

 なにやら難しそうな本のページを、すばやくめくっていく。


「あのな、俺はまだ半人前なの。そんなことは、まともな人間になってからするべきなんだ」


 今日もライファンは予知を全否定だ。


「恋をしている暇がない俺がいきなり婚約? どれだけ飛躍したらそうなるんだよ」


 悲しくなり、リリッシェはうつむく。

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