第32話 久しぶりの異世界

 翌日、俺は大学を休むことにした。

 授業をサボったことはないから、単位を落とす心配もない。

 一日くらいなら風邪だと誤魔化せるだろう。


 それに休んででも行かないと、大学の後だと時間が限られてしまう。

 杏奈には見つからないとしても、今日はなるべく多くの時間を異世界で過ごしたい。


 多分、エマさんとステラさんは笑顔で迎えてくれる。

 そんな根拠もない自信だけを何故か持っていた。


 朝食を済ませると、九時になるまで気を紛らわせながら過ごす。


「九時になったらすぐ行こう。じゃないと、また決意が揺らぐ」

 

 ソワソワして落ち着かない。

 何度も時計を確認しては、ため息を吐きだした。


 テレビのリモコンを見つめる。

 もう機能してなかったらどうしよう。

 

「いや、大丈夫だ。きっと異世界へ行ける」


 吐き気を催すほど緊張したが、九時と同時にテレビのスイッチを押し、すぐに黄色のボタンを押した。


 テレビから光が放たれ、俺は異世界の施設へと降り立った。


「来られた」

 変わらない光景が広がる。

 久しぶりの感覚だが、実際はせいぜい十日ぶりくらいだから、変わりようもないのだが、それでも初めて来た時と同じくらい緊張している。


 受付へ行くと、アナイスさんが気づいてくれた。


「あらぁ、お久しぶりねぇ。エマとステラが心配していたわよぉ」

「ごめんなさい」

「いいのよぉ、謝る必要なんてないわぁ。すぐに部屋に通すから、ちょっと持ってねぇ」


 アナイスさんは、奥のスタッフルームへと移動した。

 少しすると、個室へと案内される。


 俺がドアをノックするのをためらっていると、横からアナイスさんがノックした。

「え?」

 思わずアナイスさんを見ると、俺に向かってウインクをした。

「二人が会いたがっているわぁ。早く入ってあげてね♡」

 それだけ言うと、アナイスさんは受付へと戻っていった。

 同時にドアが開く。


「「悠伍さん!!」」

「あ、ひ……久しぶりです……」

「良かったぁぁーー!! もう来てくれないかと思ったよぉ!!!」

 

 目が合うなり、ステラさんが腕を引っ張って室内へと誘導した。


「エマさん、あの……しばらく来なくて御免なさい」


 俺が言うと、エマさんは慎ましく顔を横に振る。


「いえ。もしかして、私たちがやりすぎたのかもしれないと、反省していたんです」

「そんなんじゃないです!! 俺が……気が弱いせいで……。なかなか言われた通りに出来なくて……」


 ここへ来ていなかった間のことを全て話した。

 杏奈のことも今までは黙っていたけど、今日は思い切って喋った。

 暴食したこと、ダイエットを続けたいが、自信がないこと、不安に思っていることも全てぶちまけた。


 二人は何も言わず、頷きながら真剣に聞いてくれている。

 

「それでも、俺。痩せたいって思ったんです」

「うん……。悠伍さんは凄いよ!!」


 ステラさんが感動したように言ったが、俺はダメダメな時間を過ごしていたんだ。

 凄いなんて言ってもらえるポイントすらない。

 でもエマさんも、一緒になって俺を凄いと言う。


「そりゃ、初めこそ異世界こっち側から呼び込んだけどさ、今日は悠伍さんの意志できたんでしょ?」

「はい、勿論」

 二人の他に頼れる人なんていないし、二人だからこそ、話を聞いてほしいと思った。

 ステラさんは、その行動力を誉めてくれた。


「少しくるタイミングを逃すとさ、それだけの理由で来なくなる人多いんだよ。でも悠伍さんは来てくれた。だから、絶対にダイエット成功するよ!」


 力強くステラさんが言った。


 凄いのは、エマさんとステラさんだと俺は思った。

 この数日悩んでいた日々が嘘かのように、話をしただけで俺のモヤモヤしていた心が晴れ渡る。

 まるで魔法にかけられたみたいだ。


 やっぱり、来てよかった。


「今日は久しぶりですし、たくさんお話をしましょう。悠伍さんのこと、もっともっと教えて下さい」

「俺も、ダイエットのこともっと詳しく知りたいです。自分ではどうすればいいのか分からなくて、それがストレスになってたりするんです」

「そうですね! じゃあその辺のお話もしましょう」


 エマさんが満面の笑みを浮かべてくれた。


 

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