第31話 自分の気持ち
杏奈とは、顔も合わせないまま数日を過ごしていた。
異世界にも行けていない。
あの日から、食べるのを我慢できなくなっている。
せっかく一ヶ月以上も頑張ってきたのに。
こんな自分に嫌気がさす。
ストレスで食べて、それを後悔して……。そんな繰り返しを何日送っただろうか。
このままじゃいけない。
「ダイエットを本当に辞めたいか?」
そう聞かれれば……自信はないが辞めたくはない。
あわよくば、痩せた自分を見てみたい気持ちはある。
でも、一人ではどうすることも出来ない。どうすれば痩せるのかも分からないし、今までだってエマさんたちに従ってきただけだ。
自分でしていることなんて、せいぜいウォーキングくらいしかない。
今の生活を話すと、食べては歩き……。気が向いた時だけ動画を見ながらストレッチをする。以上。
「明日こそは……異世界に行こう」
今日こそ心に誓う。
この数日ずっと考えていた。
杏奈と仲直りをするなら、ダイエットは諦めた方がいいのかもしれない。
でもこの先の人生を考えたとき、いつまでもダラダラしていていいのか。
就活にだって関わってくるかもしれない。
杏奈とだって、いつまで学生ノリで一緒の時間を過ごすかも分からない。
この先の未来で杏奈と会うこともなくなれば、自分のことくらい自分で面倒見れなくてどうするんだって。そう言う考えに行きついた。
ダイエットをやめる、やめないを、自分で決めるのがどうしても出来なくて、今はそれが一番のストレスになっているような気がする。
だから明日、勇気を出して異世界に行って、エマさんとステラさんに相談しようと思い立った。
「よし! 気持ちが固まったら、ちょっとスッキリしたぞ」
いつもなら、こんな感じで自分が頑張ろうと思った時に限って杏奈に振り回されていたが、(振り回されるお前が悪いと言われると、言い返せない)今は杏奈と会うこともない。
この機会に、本当は自分がどうしたいのかを見直す時間にしてもいいのかもしれないと思えた。
それに気づいた時、初めて一人になった時間が寂しくなくなった
ふんっ! と鼻息を吐き出すと、気合を入れて部屋を片付け始める。
お菓子をキッチンの棚の上の見えない場所に隠し、水のペットボトルを掴んで夕方の河川敷を歩いた。
「今日は」
「こ……こんにちは」
すれ違い側に、おばさんから挨拶をされた。
見覚えのある顔の一人だ。
俺のことも覚えてくれたのだろう。声をかけてくれたのは初めてだ。
俺も初めて挨拶を返した。
おばさんはニッコリと笑って去っていった。
その後からも、数人の人と挨拶を交わす。
「こんな簡単なことなんだな」
会釈をするだけでもカナリの勇気だったのに、いざ声を出してみると別にどってことない。
もしかすると難しいと思っているだけかもしれない。ダイエットも。
本当はもっとシンプルで簡単なのかもしれない。
ちょっと今日は気持ちが軽くなった。
一言の挨拶のおかげで救われた気がする……なんて言えば大袈裟か。
でも久しぶりに前向きになれたのは確かだ。
キッカケなんて、ほんの少しのアクションで生まれるのかも。
「歩きに来て、良かったな」
夕日に向かって歩いていたが、いつもの地点で引き返して家へと帰った。
悩んだ日が無駄だったとは思わない。
杏奈の件だって解決してないし。まぁ、そこは追い追い考えるとして、俺のダメなところは気持ちがすぐに揺らぐところだ。
暴食していた数日、正直食べるのを楽しいとは思えなかった。
ダイエット前はとにかく食べるのが楽しくて仕方なかった。でも、今はストレス発散の目的で食べて、結局それがストレスの原因にしかなっていない。
とどのつまり、自分がどうなりたいのかということだけに論点をおいた時、俺はやっぱり痩せたいと思ったのだ。
しばらく異世界に行ってないから、勇気はいるけど、それもきっとさっきの挨拶くらいのレベルの勇気かもしれない。行ってしまえば「こんなもんか」と思えるような気もする。
もしエマさん達が怒ってたらどうしよう。とか、忘れられてたらどうしようとか、色んな不安は拭いきれないけど、とりあえず行ってみようと決意した。
「早く明日にならないかな。俺の決意が鈍る前に……」
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