第28話 爆発したストレス

 週末明けて、今日はやっと異世界へ行ける。

 早朝のウォーキングは面倒ながらもちゃんと行った。行ったら行ったで朝の少し冷たい空気が美味いと感じる。


 でもこれを続けるのが大変なんだ。

 二日目の今日、早くも面倒だと思ってしまった。

 こんなので痩せるまで続けられるか心配だ。自分のことなのに。歩きに行けばいいだけの話なのに。それを行動に移す動力が弱い。


 昨日も今日もいたっけ……という人を何人か見かけた。

 走り方や、喋り方で何となく覚えていたのだが、あの人たちは走ったり歩いたりするのが楽しいと思っているのだろう。


 俺にはまだ、その感覚は理解できない。


 こんな単純な、生活に必要不可欠な動きでさえ面倒だと感じているんだ。

 これからもっとキツい動きが増えるだろう。

 食事だってもっと厳しく指導されるだろう。


 寝起きにそんなことを考えてしまうと、もう体が動かなくなる。


「あぁ、もうこのまま辞めてしまえたらどんなに楽か」


 そんな独り言を呟いたりする。

 緩いながらにも一ヶ月以上ダイエットが続いているのは、正直二人の前でカッコつけたいからだ。

 それ以外の理由などない。


 エマさんとステラさんがこんなにも応援してくれて、俺のために色々考えてくれている。

 それを台無しにしたくないんだ。


 ウォーキングから帰ってくると、魔法の粉を飲んだ。

 そのまま朝食を摂り、大学に行く準備をする。

 

 ここからまた一駅先まで歩く。

 

「考えただけで、嫌気がさすな。どうせ杏奈はまだ起きないだろうし」

 

 自分がこんなにも頑張っているのに、何も頑張っていない杏奈は細い。

 最近、やけにこのことが癪に触る。

 

 俺の方が頑張っているのにな……。

 現に今だって杏奈は寝てて、俺はウォーキングもしてまだこれから歩いて……。

 

 ジャンクフードだって、以前の半分以下まで減している。

 それなのに、鏡に映る自分は目に見えて変わってはない。

 今朝、シャワーを浴びた後に体重を測ると、昨日よりも一キロほどしか痩せてないかった。

 

 杏奈に対してのこの気持ちが、ただの妬みだとも自覚している。

 でも、なかなか痩せない自分へのストレスを、食べること以外にどう発散すればいいんだ。


「はぁぁぁぁ……何か食べたい」

 無意識で呟いてしまう。

 何かとは、何か……。


 ハンバーガーが食べたい。唐揚げにマヨネーズをたっぷりかけて食べたい。チーズピザが食べたい。背脂増し増しのラーメンが食べたい。チョコもスナック菓子もアイスもケーキも、何でもかんでも手当たり次第食べたい。


「うぅぅ……考えたら、余計に食欲が爆発しそうになってきた」

 

 さっき朝食を食べたばかりなのに、すでに腹が減っている。

 

「今日くらい、好きなもの食べようかな」

 

 日頃頑張ってる自分へのご褒美に。コンビニで一番食べたいものを一つだけ買って食べようか。

 そんなことを考えていると、気持ちはもうコンビニへと傾いた。


 とりあえずコンビニを目指す。

 一駅先と考えるよりも楽しい。

 なるべく行かないようにしていたコンビニ寄れると思っただけで、何だか気分がワクワクする。

 

 この調子で歩けば、ちょっとくらいの買い食いくらい直ぐに消費できるだろう。


 鼻歌混じりで歩いた。

 食べては行けないとばかり考えていたのも、ストレスになってたんだなと、実感した。

 何を食べようかと考えて歩くと、いつもより足取りが軽い気がする。


 実際、目的のコンビニまでいつもより十五分も早く到着した。


 早速店内を隈なく探索する。

 パンにしようか、おにぎりにしようか、アイスにしようか。


「いや、ここは……チキンだろ」


 店内で揚げたジューシーな脂が、ジュワッと口いっぱいに広がる。

 スパイシーな味付けと柔らかい肉質。

 全てのバランスが絶妙に計算されている。

 コンビニの顔と言ってもいいだろう。


 一個だけ買おうと思っていたが、思い切って二個買った。

 

 この後歩くから大丈夫だ。

 

 コンビニの隅にあるイートインスペースに座り、かじり付いた。


「う……っっ。くぅぅ……」

 正直、うますぎて言葉を失った。

 大袈裟だと言われるかもしれないが、「うまい」の一言に声を詰まらせたのだ。

 若干瞳を潤ませてしまったほどだ。


 今まで我慢していた分、この感動は大きい。

 二つ買ったチキンを、ものの数十秒で腹に収めた俺は完全に調子に乗った。

 油物には炭酸飲料。これもエマさんとステラさんに言われてからは飲んでいなかった。

 でも今日だけはいいだろう。

 

 追加でチョコチップが練り込まれたメロンパンも一緒に買った。


 再び、イートインスペースに座りペットボトルの蓋を開ける。

 小さくプシュッと空気が漏れ、それから中が溢れないように注意しながら蓋を回す。

 

「これは0キロカロリーのだから、大丈夫だろう」

 気休めになるかは分からないが、一応カロリーのない炭酸飲料を選んだ。


 甘さは微妙だけど、喉を通りながらシュワシュワと弾ける泡が心地いい。

 メロンパンなんて、気付けば完食していた。

 食べた記憶もない。

 もっと味わえば良かったな。


 でも、ここで俺は重大なことに気がついた。


 食べれば満足すると思っていたが、そうではなかった。


「ヤバい……。もっと食べたい……」

 抑えていた食欲が、爆発してしまったのだ。

 

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