第27話 いつまで経っても

 人生初の筋肉痛になったことで、気付いてしまった。


 晩御飯をお弁当にすれば、決まった量しか入らないという、画期的な方法に!!


 皿なら、いくらでも上に盛れる。しかし弁当箱となるとそうはいかない。盛りすぎると蓋が閉まらないし、詰めすぎても具が潰れてしまう。絶妙な量しか入らないのだ。


「ありがとう、筋肉痛。お前のお陰で素晴らしい発見に繋がったよ」


 それから俺は毎晩お弁当を作っている。何故か杏奈のまで作らされるのは、腑に落ちないが。

 まあ、一人分も二人分も大差はないからいいんだけど。



 お弁当にすれば、自室に持ち込んで録画したアニメや映画を観ながら食べられるという利点もある。

 

 とにかく時間をかけて食べろと指導されているから、一口食べてはテレビに視線を向け、一瞬でも食べ物の存在を忘れる……努力をしている。

 が、時間をかけて食べるというは、思ってる以上に大変だ。これまでのクセもあるし、やはり目の前にご飯を置かれて、ガッつきたくなるのは人であれば仕方のないことではないだろうか。


「はーぁ、この腹がなぁ。引っ込む時なんて、本当にくるのかな」


 自分で脂肪をグワシと掴み、揺ってみる。

 Tシャツの上からでも、波打つ肉感が伝わる。

 それを目の当たりにして、さらに大きなため息を零した。


「ダメだ!! エマさんだって頑張ってシスターになれるまで痩せたんだ!! 俺だって……」


 ガッつくな……ガッつくな……。

 自分に言い聞かせるが、こんなノロノロスピードで食べるなんてストレスでしかない。

 だんだんイライラしてきたぞ。


 もう、ゆっくり食べるのは明日からでいいか。

 弁当箱を持ち上げ、口元に運ぶ。箸を立てたところで……杏奈が帰ってきた。

 

「やっほーー! ウチの弁当あるー?」

「ゴホッゴホッ! ノックくらい、しろ……ゴホッゴホッ」

「あちゃー、ごめんごめん。ってか、ゆっくり食べるって言ってなかった?」

「ぐっ……」


 ちゃんと見られてるじゃないか。


「それは、あ……明日から頑張るから」

「えぇぇ。そうなん? 何でゆっくり食べるん? 大口開けて食べた方が美味しいじゃん」

「そりゃ、杏奈みたいに細いやつは、どんな食べ方でもすればいいさ。でも俺はデブだから、早食いは良くないって調べたんだよ」

「へぇ~」


 まったく聞いてないな、これは。

 俺に質問しておいて、目線はしっかりテレビに向けられている。


「今日は、弁当食ったら直ぐ帰れよ。明日こそウォーキング行くんだろ?」

「へいへーい、了解っス~」


 また、その辺の返事しやがって。


「ってか、今日も泊まろうかなー」

 突然、箸を置いて俺の腕に保たれかかってきた。

 さりげなく腕を組み、手を繋ぐ。


「だってさ、一緒の部屋で寝たほうが良くない? 悠伍だって起こしやすいし」


 上目遣いで訴えてくる。

 杏奈は自分が可愛いって自覚がある。だからこういう『自分を可愛く見せる角度』を熟知している。


 不覚にも一瞬ドキリとしてしまった。


「だ……駄目!! ちゃんと帰って寝る! 週末、ずっとこっちにいたんだからな!!」


 俺の返事にむぅっと口を尖らせた。


「ケチーー!!」

「ケチってなぁ!! しっかり弁当食ったやつの言うセリフじゃないだろ!」

「別にここで寝るくらい、何も減らないじゃん!!」

「減る! なんかメンタル的な何かが減る!!」

「何それ!? 最悪。もういいよ、帰るー」


 部屋を飛び出して帰ったけど、弁当箱はしっかり空だ。


「まったく、俺らいつまでケンカして過ごすんだろ」


 弁当箱を片付けながら呟く。


 こんなにケンカしても、数時間後には何も無かったように喋ったりする。だから杏奈が怒ってもあんまり気にしてない。

 今日も泣いてないから大丈夫だろう。


 寝る前にメッセージを送る。


『明日の朝、一回しか起こさないぞ』


 すると杏奈からソッコーで返事が届いた。


『余裕☆』


 ああ、これはまた起きないだろうな。

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