第26話 最高の時間は……

 杏奈はやはり俺が起こしてくれなかったと愚痴を零した。


「だから、起こしたんだって!! でも起きなかったんだって!!」

「それはさぁ、悠伍の起こし方の問題じゃん」

「じゃあどうやったら起きるんだよ?」

「例えばぁ……王子様みたいにぃ? チュ~するとか♡ あはっ♡」

「……他には?」

「なんか言えし」

「王子様みたいな何とかかんとかは、王子様にやってもらえ。ほら、ホットケーキ焼いたぞ」


 杏奈はふわふわのホットケーキを見るなり、糸みたいに薄らとしか開けてなかった目をパッチリと開けた。


「めっちゃ美味しそうなんですけどーーーーー!! マジ天才じゃん!! 明日カフェ開けるよ」


 愚痴を言うのも全力だけど、褒める時も全力だ。

 憎めない要因はこれなんだろうな。


「バターとシロップ、どっちがいい?」

「両方!!」

「お前、ウォーキングも行ってないのに……」

「まあ、いいじゃん♪ 美味しいものはおいしいうちに!! はい、いただきまーーす! イエーイ」


 さっきまでの眠気は飛んでいったらしい。

 寝起きとは思えない食べっぷりだ。


「マジでふわっふわなんですけどぉーーー!! 幸せ~!!」

 分厚いホットケーキ二枚をペロリと完食し、おかわりまでした。


 本当に、俺と同じくらいの量食べるんだもんな。

 それなのにこの体型の違いは体質によるのか?

 神様って不公平なことをするもんだ。

 

「今日、悠伍はなんか予定あるん?」

「もうないよ。今日の分の運動も終わったし。杏奈は?」

「昼から友達とランチ行く~。悠伍も行く?」

「行くわけないだろう」

「出かけるの、面倒になってきちゃった。ドタキャンしようかな」


 杏奈が遊びに行くのが面倒なんて珍しい。


 でも「断られたら、友達は悲しむだろ」と言うと、「それもそうだよね」と言って、たらふく食べた後帰って行った。


 これが平日だったら、異世界に行けるってなるんだが。

 こんな時に限って週末だよ。


 後片付けを済ますと、部屋でのんびり過ごすことにした。

 梅雨時期の今は、雨は降らずとも昼近くになると蒸し暑い。

 俺が出かけられるのは早朝か夕方以降だ。

 

「ちょっと寝るか」


 朝が早かったし、今なら一人静かに寝られる。

 ベッドに横になるとスマホを弄っているうちに、眠っていた。



 夢を見た。

 エマさんとステラさんにご飯を振舞っている。


『悠伍さんって、お料理が得意なんですね』

『すごーーい!! これなら毎日食べたいくらいだよぉ!!』


 想像で作り上げたエマさんたちの家のようだ。

 丸いテーブルに並べたのは、ホットドックにコーンスープ。デザートにミルクレープも作っていた。


 そういえば、エマさんは甘いスウィーツが好きだと言っていたっけ。

 頬に手を添え、美味しいと何度も繰り返しながら全部食べてくれた。


『全部食べてくれるなんて、嬉しいです。作った甲斐がありました』

『いえ、私たちも凄く嬉しいです。悠伍さんの手作りのお料理が食べられるなんて』

『エマったら、悠伍さんと結婚したいんでしょ?』

『ステラ!! そ、そんなこと言ったら、悠伍さんが困るでしょう? ごめんなさいね、悠伍さん。ステラが勝手に……』


 エマさんが頬を染めている。

 本気で照れているのか?

 本当に俺と結婚したいって思ってくれているのか?


『エマさん。俺も……あの、将来的に……エマさんと一緒になれたらって……』

『えぇ? そんなのずるいよ!! ボクだって、悠伍さんと結婚したいもん!! エマには渡さないよ!』


 ステラさんが俺の腕にしがみつく。

 するとエマさんが反対側で腕を組んだ。


『え、その……二人とも!! 俺、どっちかなんて選べない!! どっちも俺の女神だーー』


 叫びながらガバッと起き上がった。


「夢……だよな。うん、知ってた。いい夢だった」

 賢者タイムに入り、気持ちを落ち着かせた。


 それにしても、覚めたくない夢だったな。

 もう一度寝たら、続きから観れるだろうか。


 でも、こう言う時ってもう寝れないんだ。

 

「くっそーーーー!!!」


 いくらでも寝られる杏奈になりたいと本気で思った。

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