第24話 これが噂の筋肉痛!?

「いてて……いてててて。おかしいな。筋肉痛は明日か明後日って言ってたような気がするんだけど……」


 エマさんとステラさんに挨拶をする時から、既に背中と腰が痛い。

 これが俗に言う【筋肉痛】というやつか。

 ここまで痛いとは思わなかった。


 明日もっと酷くなってたらどうしよう……。


「姿勢正しただけなのに……」


 待て……こんなので、本格的に運動が始まればどうなってしまうんだ。

 歩行困難くらいにはなりかねん。


 ただでさえ脂肪が邪魔で動きにくいのに、その上、筋肉痛なんて、もう俺に『動くな』と言っているようなもんじゃないか。


「そうだ。帰ったらすぐ魔法の粉を飲むよう言われてたんだ」


 相変わらずクローゼットに隠してある魔法の粉は、今では三種類の味に増えている。


 チョコの他にイチゴ味と、抹茶味。その時の気分で選べるようになり、飽きることもなく続けられている。


 今日はイチゴ味のボトルを手に取り、台所へと向かう。が……、背中にピキっと爆ぜるような痛みが走る。


 前から足元なんて見えなかったけど、今日は更に目線しか下げられない。

 階段の手すりを汗ばんだ手でしっかりと握りしめ、一段一段、慎重に降りていく。


「こんなところ、杏奈に見つかれば大変だ」


 神出鬼没なあいつは、これまでもヒヤヒヤするタイミングに顔を出している。

 こんな滑稽な姿を見られる訳にはいかない。


 今日は来ないで……と祈りながら、命からがら一階へ降り立った。


「はぁぁぁぁ……。階段降りるだけでこの労力か」

 これは先が思いやられる。

 また自分の部屋に戻るのさえ、躊躇してしまう。


「しかも明日は週末か……」

 異世界に行けるのは平日だけだ。

 なんで俺は、ストレッチのやり方さえ聞いていないんだよ。


 こういう所でダメダメ男が発動する。


 そう何回も階段を降りたり登ったりしたくない。


「そうだ。晩ご飯にお弁当を作ろう」


 そうしたら部屋で食べられる。我ながら名案だ。

 卵焼きとウインナーを焼き、お惣菜だけど筑前煮を詰める。メインは鮭の塩焼きだ。

 エマさんから魚も食べるよう言われてしまったからな、仕方ない。

 そしてブロッコリーにミニトマト。


「あれ、もしかして俺って弁当の才能あるかも」


 テキトーに定番のメニューで作っただけなのに、これは美味しそうだ。


「わっ! 美味しそうじゃん! ウチの分はないの?」

「わーーーー!!!」

 ビックリし過ぎて雄叫びを上げてしまった。

 いつの間に、杏奈が俺の背後に立ってたんだ。


「背後に立つな! 腹にしがみ付くな!!」

「んもーぅ耳痛い!! そんな叫ばなくていいじゃん!」


 俺の腹がぷよぷよで、ぬいぐるみより気持ちいいなんて言いやがる。

 今日も失礼街道まっしぐらだ。


「杏奈が驚かすからだろ!! いてて……」


 驚いた弾みで、筋肉痛の背中が再び悲鳴をあげた。せっかくお弁当を作ってる間、忘れてたのに。


「いててって、どうかした?」

「あぁ、筋肉痛になって……」

「はぁ??? ぎゃはははははっ!! 悠伍、筋肉痛の意味知ってんの?」

「知ってるわ!!!」


 そりゃ、俺の口から一生出される予定は無かった言葉が飛び出したんだ。

 俺とて想定外の道を進んでいる。

 杏奈が笑うのも無理はない。


「なあ、何かストレッチ知らん? 姿勢矯正したら、背中がずっと緊張状態なんだよ」

「ああ、姿勢矯正ねぇ。ビックリしたぁ。筋トレでも始めたんかと思ったじゃん」


 ……別に筋トレでも良いじゃないか。


 杏奈の言葉に悪気はないが、ストレート過ぎて傷付くことがよくある。

 確認させてもらうが、俺はデリケートなデブなんだ。忘れるな。


 なんだかんだで杏奈の分のお弁当も詰めると、部屋に戻ってストレッチの動画を探してくれた。


「こんな動画上げてる人もいるんだな」


 普段は大食い系やアニメ系しか見ないから、知らなかった。


「友達ともよくやってるんだー」


 杏奈とストレッチをして過ごす夜。

 お陰で少しは動きやすくなった。


 その後のお菓子を断った事で今度はケンカが勃発し、さらにカロリー消費ができた気がする。


 明日と明後日は一人でもしっかり歩こう。

 

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