第22話 三日ぶりの異世界
杏奈からどうにか逃げ切った放課後。
しょっちゅう言い訳を考えるのも大変だ。
俺がもっと行動的な人なら良かったのだが、いつだって引きこもってばかりいる。
それなのに、急に家に毎日いないとなれば誰だって怪しむだろう。
困ったのは、杏奈が何かを察しているのか、最近俺を誘う率が上がっているということだ。
「やっぱり、言い訳が苦しいのかな……」
別の場所から異世界に飛べればいいが、異世界への窓口は自分の部屋のテレビのみ。
『家にいるが遊べない』という状況がそんな頻繁に作れるものか。
とりあえず今日は電話もかかってこないから大丈夫だろうとは思ってるが……。
部屋のレースカーテンをチラリと開けて、外の様子を伺うと、人の姿は見えなかった。
「よしっ。行こう」
せっかくこれまで皆勤賞を狙っていたのに、三日ほど行けてなかった。
杏奈にしっかりと捕まっていたのだ。
テレビを付けて、ボタンを押す。
たったの三日だけど、少し緊張する。
サボりだと思われるかもしれない。
ダイエットの施設に来ると、変わらず人でいっぱいだ。
俺が来ていない間も、これだけの人がダイエットに励んでいたのかと思うと、焦りの気持ちが生まれる。
「くそ……。あいつもこいつも、ご褒美もらってるのか」
ブツブツ言いながら受付へと急いだ。
早く二人に会いたい。
来れなかった間の言い訳なんて、必要ないんだろうな。言い訳をあれこれしたくなるけど。
絶対、毎日来いってわけでもないし。
今日は受付にアナイスさんの姿が見えなかった。休みなのかもしれない。
でも他の人も負けず劣らず美人だ。
そして喋り方もよく似ている。
受付専用のマニュアルでもあるのだろうか。
案内された部屋へ向かいながら、自分が浮き足立っているのが分かる。
エマさんとステラさんに会えるのを、細胞レベルで喜んでいる。
ワクワクするような、ドキドキしているような、どんな表現が正しいだろうか。
この扉の向こうに女神が二人立っていると思っただけで、俺の胸は爆発しそうなほど高鳴るのだ。
ふぅっと息を吐いて気持ちを整えると、品良くドアをノックした。
「「はぁーい」」
中から聞こえてきたのは、エマさんとステラさんの声だ。
はぁぁぁ。もう素敵だ。
小躍りしたいくらい嬉しい。
ドアを開けると、はにかんだエマさんが視界に飛び込んできた。
ミニ丈のワンピースを着ている。
ステラさんが、俺のファイルを持って奥からひょこっと顔を出した。
「悠伍さん、三日も来なかったから心配してたんだよー!」
「ごめんなさい。なかなか時間が取れなくて」
「忙しかったですか?」
「いや、それが……」
杏奈に捕まってました……。なんて言うのは杏奈に失礼だよな……。
「一人でも頑張ってみようと思ったんですけど、やっぱり気合が入らなくて来ました」
「そうだったんですね! 一ヶ月も経つと、諦める人が続出するのに、悠伍さんは益々やる気に漲っていて素晴らしい!!」
エマさんに褒めて欲しいから。とは言わないけど、この二人がずっと褒めてくれるから、単純明快な俺は諦めるどころか、もっと褒めてほしいなんて思ってる。
完全に承認欲求拗らせてるな、俺……。
「二人のアドバイスのおかげで、食事が変わったのにも慣れてきました」
以前の脂ぎった食事メニューから、少しずつ変えていっている。
最初は深夜飯を止めるだけ。ダイエット向きの食材に変えるだけ。夕食後のスウィーツを止めるだけ。
深夜飯をやめたのは辛かったけど、今では食べたいとも思わなくなっている。
胸肉も食べてみれば美味しい。
料理方法も、何パターンか教えてもらって、ダイエット中でも使えるオイルなんかも提案してもらった。
「じゃあ今度はジュースをやめて、お茶にしましょう」
「ジュースも飲めなくなるんですか?」
水分補給が味気ないお茶になるなんて……。
固形物だけ変えるのかと思っていたのに、これはショック。
「水分の方が太りやすいんだよ」
「そうなの? 知らなかった」
「大丈夫、大丈夫! 今までも慣れれば別にどってことなかったでしょ? 今回も絶対うまくいくよ!」
ステラさんが俺の手を両手で握って、ぶんぶんと振る。
彼女のボディタッチはいつも自然で、嫌味がない。
そして俺を励ますのが上手い。
なんの根拠もないけど、ステラさんが言うと本当にできそうな気持ちになる。
「そうですね。悠伍さんが私たちの前で体重を測ってもいいよってくらいまで痩せれば、運動量も増やせますよ。そしたらもっともっと痩せるスピードが増します」
「本当ですか?? 頑張ります!!」
どんな運動をするのかは、今はまだあんまり聞きたくない。
キツいトレーニングはいきなりしないとは言っていたけど、避けては通れないだろう。
まぁ、俺がそこまで痩せればの話だけれど。
でも二人と一緒に運動するってことは……。もっとボディタッチも増えたりして……。
なんて
ご褒美も今はハグ以上のことはない。
これが運動ともなると、毎回キスしてくれるかもしれない。
前にこっそりエマさんがしてくれたように。
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